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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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皇太子の夢

 ザクスを夢をみていた。

 

 それが夢だと分かったのは、夢の中の自分が向けられる蔑視の視線や罵りに、傷付いていたからだ。

 

 今のザクスはそんなもので、簡単に傷付いたりはしない。

 

 

(8歳くらいの時の記憶の夢か)

 

 

 目の前に、4年前に王が今患っているものと同じ流行り病で亡くなった母親が立っていた。

 母親はザクスと似た美しい顔を嫌悪に歪めて、吐き捨てる。

 

「お前みたいな枯渇人、私の息子ではない。……あぁ、シェルド、なぜ死んでしまったの。この無能が代わりに死ねば良かったのに」

 

(良かったな。そんな嘆かなくとも、あんたはあと2年で、愛する「唯一」の息子に会いに行けるよ)

 

 場面が切り替わる。

 目の前に血濡れの腹違いの兄が横たわり、憎悪に満ちた形相でザクスを睨み付けていた。

 

「なぜ、お前が、枯渇人のお前なんかが魔剣イブムに選ばれる…っ!?俺の方がよほどふさわしいのに!!俺が王になるべきなのにっ!!」

 

(俺が知るか。イブムに聞け)

 

 

 今なら即座に一刀両断出来る戯れ言達。

 たがその言葉を聞いた当時ザクスは、確かに傷付いていた。

 

 

 次々と過去に邂逅したことがある人物達が表れ、聞いたことがある罵倒をザクスに投げかけていく。

 

 

 投げかけられる言葉が増えれば増えるほど、心の底が段々冷えきっていくのが分かった。

 

 

(寒い、な)

 

 ファルス大陸は一年を通して温暖で、人々が寒さを感じる場面は殆どない。

 ザクスは一年ほど前、他大陸にあるクタルマヤ共和国と和平を結ぶための遠征で、初めて「冬」という季節を知った。

 生まれて初めて味わう「寒さ」は、それなのにどこか懐かしいように感じたのを覚えている。

 冬の寒さは、幼い頃感じていた底冷えするような思いに、ひどく似ていたのだとようやく気が付く。

 

 

 体が震え、歯がカチカチとなった。

 

 体感気温は平常の筈なのに、寒くて寒くて仕方がない。

 

 ザクスを罵倒する人間の数が増えれば増えるほど、感じる寒さは増した。

 

 クタルマヤ共和国の国民は、寒さによって殺されることもあるらしい。

 ならば、自分も内心から沸き上がる冷たさで死ぬこともあるのではないか。夢の中で意識が遠くなるのを感じた。

 

 

 ――不意に、全身に温もりを感じて、ザクスは目を見開いた。

 

 

 何か温かい、柔らかいものに体が包まれているのが分かる。

 その温かさに驚いているうちに、いつの間にか先程までの寒さが消え去っていた。

 

(温かい……というよりも、熱い?)

 

 心地好く感じた温もりは、時間が経つにつれて徐々に心地好さを通り越した不快なものへと 変わっていく。

 というよりも、温もりを感じた瞬間から体が動かせなくなっているのは一体なぜか。

 腹部を圧迫されるような、苦しさを感じるのは気のせいか。

 なんだか頬に生ぬるい液体が付着している気がする。

 

 

 

 ザクスは即座に夢から醒め、パチリと閉じていた目を開いた。

 起きた瞬間目に入るのは、半目を開いて間抜けな顔で寝ている、自らの従獣。

 口の隙間からこぼれた唾液が、ザクスの頬にかかっている。

 その大きな体は、寝ているザクスの上にのし掛かるように伸びていた。

 

 収まりが悪いのか、ザクスの上で寝返りを打ち掛けるかのように獣は体を左右に揺らし、さらにザクスを圧迫する。

 

 

「――どけろっ!!デブ猫!!」

 

 

 当然のように繰り出された蹴りと共に、葉菜の絶叫が朝の後宮に響き渡った。

 

 

(勝手に人のベッドに押し掛けといて、理不尽だ…っ!!)

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