皇太子と変化2
「契約の絆で結ばれていらっしゃるお二方があまり仲が宜しく見えないので、よもや一方的な契約だったのではと心配していたのですか、私の杞憂でありました。殿下は御自らの手で魔獣様を洗いたがるほど、魔獣様に心を砕かれていたのですね」
(いやいや、契約は一方的でしたよっ!!てか、よく見てください!!明らかに嫌がってるの無理矢理引きずってるでしょう!!)
年のせいか涙脆くなってしまって、と微笑みながら涙を拭うリテマに内心突っ込みながらも、言葉には出せない。
ここまで喜んでいるリテマを、誤解だと主張して悲しませるのは流石に気が引ける。
「殿下が体を洗い終わりましたら、お湯を持って伺わせて頂きますのでお呼び下さいませ」
(あー、ちょっと待って、リテマさん。行かないで~~)
すがるような葉菜の目には気付かず、湯を張った風呂まで案内をすると、リテマは軽やかな足取りでそそくさと退散してしまった。
風呂場にはザクスと葉菜が残される。
(…リテマさんが行ってしまった以上、しゃああんめぇ。ザクスの好きにさせてやるか)
葉菜はため息を吐きながら、渋々不本意な状況を受け入れる。
別にうら若き少年に体を洗わせるのが、恥ずかしいとかそういうわけではない。なんせ常に素っ裸で生活している身だ。今更そんなことで羞恥を感じたり、ましてや性的興奮を覚えたりなんぞしない。
葉菜が気にしているのは、純粋にシャンプーの腕だ。
(絶対下手くそだよな……)
至福の時間をもたらすリテマの神の腕に及ばないのは分かっている。あれは天性のトリマーだ。そこまで望むのはザクスには酷だろう。
だが気持ちよくなくても良いから、せめて痛くしないで欲しい。力任せにゴシゴシ擦るなんて持っての他だ。勢い余って毛をぶちぶち抜くのも勘弁だ。
葉菜の毛皮は繊細なのだ。超撥水性という特殊な性質を持っているうえ、一本一本が太くしっかりした剛毛のように見えなくもないが、それとこれとは別なのだ。
優しく、丁寧に洗って貰わないと困る。
うろんげな眼差しでちらりとザクスの方を見やった葉菜は、思わずぶほっと吹き出した。
「なぜ、脱ぐ!?」
「脱がなければ濡れるだろうが」
細身ながら、しっかりと腹筋が割れた、彫刻のように均整がとれた上半身を晒していたザクスが眉をしかめながら当然のように返す。
(いや、リテマさんは脱がないから!!脱がなくても洗えるから!!)
性格があれなので(従獣として何があれかは深く言及はしないでおこう)普段は忘れがちだが、ザクスは絶世の美青(少)年である。裸身を突然晒されるのは心臓に悪い。年齢を知っているだけになんだか犯罪者の気分だ。
(もしや、下半身も……)
こくりと葉菜は唾を喉下する。
異性の下半身は葉菜にとって幼い頃に父のを見たきりの、未知の領域だ。
積極的に見たい訳ではないが、興味はある。
美形の下半身はやはり局部まで美しいのだろうか。
「ほら、さっさと湯につかれ」
期待するかのようにザクスを見つめていた葉菜を、ザクスはあごでしゃくる。
脱ぐのは上半身だけのようだ。ホッとしたような、残念なような、複雑な気分で湯に体を沈める。
そこからは、予想通りの悲惨な展開が待ち受けていた。
「いだいー!!ザクス痛い!!」
「大袈裟な反応するな…しかし意外と難しいな……」
「ふんぎゃああ!!」




