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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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獣と穢れた盾1

 その後も

「ザクス様は剣の腕も大変秀でられておりまして、先の戦では剣聖と言われてまして…」

 

 だの

 

「ザクス様は聡明でいらっしゃいまして、内政におけるご手腕も…」

 

 だの、聞きたくもないザクス自慢をはじめたウイフの話を、手の爪を出し入れして遊ぶことにて耐え。

 

 有言実行で成されたテストは、半分くらいしか答えられす雷を落とされ。

 

 休憩を挟んで、また別のことを学ぶ。

 

 ウイフが教えてくれる授業の内容は様々だ。先程のようなグレアマギ帝国の歴史から、一般常識、未だカタコトな言語に至るまで、葉菜が無知なことを前提で勝手に教えてくれる為、正直とても助かる。ジーフリートの家にいたころは、なかなか聞き出しにくいことばかりだ。

 

 

 なかでも特に「魔力」に関する話は、ザクスと出会う前まで存在すら知らなかった為、はじめて聞く事柄ばかりで、とても役にたつ。

 

 

「……穢れた盾?」

 

「えぇ。『招かれざる客人』とも言われる、異世界人のことです」

 

 どこかで聞いた言葉だ。思いだそうとした瞬間、思いがけない「異世界」という単語が出てどきりとする。

 そして思い出す。「穢れた盾」はジーフリートにすがり付いていた時、盗賊の男が喚いていた言葉だ。

 盗賊は葉菜のことを指すようにして、「穢れた盾」という言葉を使っていた。

 

「『穢れた盾』について説明するには、まずは魔力について説明しなければなりません。」

 

 はじまったウイフの講釈に、葉菜は身を乗り出した。

 きっとこれから語られることは、自分にとってかなり重要なことだ。一字一句聞き漏らしがないようにしなければならない。

 

 

「魔力は内なる力…人間に限らずこの世界における、全ての生き物に宿る力です。プラゴドやナトアはけして認めませんが、それらの国の民もまた微量ながら魔力を所持しています。

 一般的に魔力の量は生まれたときに、それぞれ上限を定められており、減少したり回復したりすることはあれど、それ以上増加することはありません。

 だけど、その理に反するのが、『穢れた盾』やプラゴドの神子のようや、異世界人です」

 

(理に、反する…?)

 

「異世界人は魔力を有しない世界にいた存在、いわば真っ白な紙のようなものです。異世界人は紙がインクを吸うように周囲の魔力を無意識のうちに吸収し、自分のものとしてしまいます。その上限ははかり知れません。

 また異世界人は自分の魔力を他人に譲り渡すことができるそうです。まさに生きる魔法具。あらゆる意味で規格外の存在です」

 

 葉菜は告げられた新事実に目を見張った。

 まさに異世界補正。自分にそんな秘められた能力があったなんて。

 

(もしかして、チートって奴でないかい?)

 

 尻尾が、歓びを反映するかのようにブンブン揺れるのが、分かった。

 

 何もなかった、何も出来ない、駄目な自分。

 

 

 平和な日本ですら、満足に生きられない自分。

 

 そんな自分に異世界人というだけで、降ってわいたように与えられた特殊な才能。なんという幸運だろう。

 

 

 変われるのかも知れない。

 それこそ、物語の登場人物のような、素晴らしい人間になって、栄光に満ちた人生を送れるかも知れない。

 

 

 駄目な自分が、与えられた力によって、皆に憧れ尊敬される存在になる。

 

 誰もが葉菜を畏れ、敬う

 見下されたり、馬鹿にされたり、そんなこととは無縁の、特別な存在に。

 

 

 全ての人が、葉菜の前にひれ伏す。それはどんなにか良い気分だろう。

 

 

 葉菜は今の自分の姿が獣であることも忘れて、描いた未来予想にうっとりと陶酔した。

 

 だが、現実はそう甘くはない。

 

 

「……ただ異世界人は魔法と無縁な生活を送っていたせいか、無意識でしか魔法を使えない場合が多いので、魔法の行使者よりも寧ろ、権力者をパトロンに持った魔力供給者になることがほとんどようですが」

 

(なんという、宝の持ち腐れ…っ!!)

 

 葉菜はがっかりと肩を落とした。付随して揺れていた尻尾も、悲しげに床にに落ちる。

 莫大な魔力を持っていても、使えなければ意味がない。

 魔力の供給者として権力者に寄りかかって過ごすのは、働き口がある分悪くないのかも知れないが、なんというか、憧れない。

 というより、権力者であるザクスに縛られて庇護されている今の状況とあまり変わらない気がする。

 

「……そもそも、何で来る?異世界人」

 

 

 せっかくの機会だからと、葉菜はウイフに質問をする。

 死んでいたのかも知れない自分が、何故トリップしたのか聞いてみたい。

 

「異世界の人間は、神力による召喚の儀によってのみこの世界に現れます。

 プラゴドでは100年に一度の災害の発生に伴い、異世界から災害を鎮める特別な神力を持った異世界人の神子を喚びます。

 ただ、先程お話したとおり、異世界人は魔力に染まりやすい。そして召喚自体は神力によって行われるのですが、不思議なことに神子を此方の世界に運ぶ力は魔力が使われているのです。

 神子に魔力を吸収させないため、プラゴドはついでに神子の近くにいた人間を供に召喚し、神子の代わりに魔力を吸収させます。この存在が、『穢れた盾』もしくは『招かれざる客人』と呼ばれているのです」

 

(つまりはたまたま神子の傍にいただけのオマケ……もしくは人間フィルター…)


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