獣とお城ライフ6
もともとファルス大陸には、聖プラゴド王国とナトアの二国しかなかった。
唯一神シュフリスカを崇拝し、神への祈りの結果与えられる加護である「神力」を至上と考えるプラゴド。
自然に帰依することをのぞみ、自然界に住む精霊たちを崇めながら、対話して力を貸してもらう「精霊力」を持つナトア。
そんな二国の中で、迫害されていたのが、後にグレアマギ帝国の民になる身体に内なる力を行使できる、「魔力」の持ち主である。
プラゴドの民は、「魔力」の持ち主を、神からの加護を与えられない穢れた力の持ち主だと蔑視した。
ナトアの民は、精霊に頼らずとも魔法を行使することができる「魔力」の持ち主を、恐れた。
今から約1000年前。
魔力持ちだった一人のナトアの青年が、迫害から立ち上がる。
彼は迫害を受けているものを二国から集めて、プラゴドとナトアと闘い、国を興した。
彼の人の名前はザイル・ファウス・グレアム。
グレアマギ帝国の始祖である。
「ザイル様は闇を切り取ったかのような、漆黒の髪と瞳を持っていたといいます。そして莫大な魔力を有しながら、加えて魔剣イブムを従えておりました」
「…………」
「魔剣イブムは正しい使い方を持ってすれば、魔力だけどはなく、神力や精霊力すら断ち刈ることができる力を持っております。『はじまりの闘い』と言われるプラゴドとの闘いでは、この剣を持ってしての活躍が不可欠だったと言われております」
「………………(ふりふり)」
「イブムは王ならば必ず従えられるというものではありません。イブムは主を選びます。歴代の王の中でもイブムを従えられた方はごく僅かでした。それ故にイブムを従え、また文献にあるザイル様と酷似した容貌をされているザクス殿下は、建国の英雄の再来であると詠われているのです」
「…………………………(ふりふりふりふり、びたんびたん)」
……尻尾が揺れる。
勉強をする時ちゃんと話を聞いていても、ついついノートの端に落書きをしてしまったりする人は、葉菜だけではないと思う。
勉強は嫌いでない。嫌いでないが、つい話を聞きながら、手遊びもしてしまう。そんな人は多いのではないだろうか。
ノートを書いて話を纏めたり出来るなら、まだその沸き上がる他動性を押さえられる。だが肉球ふくふくな虎の手でペンを持つのはかなり困難な為、葉菜の勉強法は聞いて脳内ノートに書き記すことだけである。
マンツーマンの授業の為、舟を漕いだりボーッと空想にふける訳にもいかず、なかなか辛い。
結果始まってしまったのが尻尾遊びである。
無意識で動かしている尻尾を、自由意思で動かすのはなかなか難しい。くねらせたり、捻らせたりといった複雑な動きなら尚更である。
家庭教師であるお爺さんこと、ウイフに見つからないように背後で様々な動きを試してみるのはスリルもあって面白い。
(次は右にひねってから一回転…)
「……魔獣殿?」
陶酔するかのようにザクスのことを語っていたウイフの目が急に鋭く葉菜に向けられたことで、葉菜の尻尾は驚きから無意識で立ち上がった。
(あだーっっ!!尻尾、尻尾をつった!!)
ツイストからの急激な立ち上がりという負荷に耐えきれなかった筋肉がつり、傷みがはしるが、葉菜は悶絶を押し隠し何でもないかのように首をひねってみせる。
「……なあに?」
「……話を聞いてましたかな?」
「聞いてたよ?」
上目遣いにウイフを見つめながら、飄々とそう宣う。
意識するのは数年前にブレイクした某CMのチワワ。きゅるんと効果音がつくくらいの、愛くるしい表情を目指す。
(頼む、ウイフ。この愛らしさに誤魔化されてくれ)
「……まあ、良いでしょう」
ウイフの言葉に葉菜は内心ガッツポーズをとる。
愛すべしと書いて可愛いと読む。可愛いらしさは正義だ。
「……あとで口頭テストを行いますからね」
葉菜の内心を読んだかのように付け足され、ギクリと体が跳ねた。
ウイフに見つからないようにつった尻尾を伸ばしながら、明後日の方向を向く。
尻尾あそびはホドホドにしとこう。




