獣とお城ライフ4
猫は風呂嫌いだというが、猫科であるはずの葉菜は特に問題がない。
寧ろこの城に来てよかったと心から思える数少ないことの一つだ。
(あぁ、リテマさん。そこ、そこです。んあ~、そうです!!もっと耳の裏あたりさこさこして下さい。あとで肉球マッサージもお願いします!!)
石鹸に似たもので作った泡を纏った、リテマの大きい、けれども柔らかい手で躰で全体を洗われて、葉菜はうっとりと目を細める。
なんと絶妙な力加減。なんとツボをついた手の動き。思わずくたりとバスタブに寄りかかるように全身を弛緩させ、ゴロゴロと喉を鳴らす。
そう、リテマの手は大きい。手だけでなく、身長も高い。170半ばくらいはあるのではないか。
この世界で出会った女性はリテマだけなので、あくまで推測だが、この世界の平均身長は日本より10㎝以上高いのでないだろうか。ジーフリートも180㎝以上あったし、盗賊はもっと背が高かった。
それならば、日本女性の平均身長程度の葉菜がやたら子どもに見られていた事実も納得がいく。
(ということは、ザクスはこの世界ではチビな方なのか)
ザクスの身長はリテマより少し小さいくらい、恐らくは170㎝ちょっとだろう。
あの全身から傲慢を垂れ流している男が、この世界ではチビ扱い。
思わず、「けけけ」と声をあげて嘲笑いたくなる。虎の声帯ではそんな音は出せないし、念話で笑い方を伝えるような小器用な真似は出来ないが。
リテマに体を洗って貰う至福の時間が終わると、別に用意されたちょうどよい湯加減のお湯で、体を流して貰ってバスタブから外に出る。
リテマに外に出て貰うようにお願いをして、躰を震わせて水気を飛ばすと、瞬く間に毛皮が乾いた。
タオル入らずにして、ドライヤー入らず。普通の虎がこんな毛皮をしている訳がないので、葉菜の毛皮が特別に撥水性のようだ。水を弾くといえば、油をイメージしてしまう葉菜としては、自分の毛皮が相当油ぎっているのではと、複雑である。
いや、そんな筈はない。見た目通りフワフワサラサラな、うっとりする触り心地の毛並みの筈だ。肉球がついた自分の手で触ってみても、よくわからないが、リテマが気持ち良さそうに撫でてくれるから、そうに決まっている。そう自分に言い聞かせる。
戻ってきたリテマにブラッシングをして貰い(これまた気持ちいい。リテマは女官よりも、ブリーダーになるべきだ)意気揚々と湯編みの場を後にする。
お風呂が終わればご飯だ。お城の食事はとても美味しい。
食事の間に入ると、既に先に食事を終えたザクスが不機嫌そうに待っていた。食事が終わったなら、さっさと後宮を出て仕事に行けば良いのに、と内心舌打ちをする。
まあ、いい。今はザクスなんぞ気にしている暇はない。朝から運動して、もうすっかりお腹はぺこぺこだ。
「はい、魔獣様。お待たせしました。」
リテマによって、運ばれた食事に葉菜は沸き上がってきた唾を飲み込んだ。
ビスケットサイズに小さく切って貰ったパンを添えた、湯気をたてたビーフステーキのようなものに、カラフルな温野菜のサラダ。皮を向かれ食べやすく切られた数種類の果物。青色の柑橘系の果物の輪切りが浮かんだ水は、スープ用の浅い皿に入れられている。
最初は生肉ばかりだったが、皇太子が食べていたご飯と同じものをリテマにねだった結果、人間と同じご飯を食べられるようになった。
生肉も悪くないが、やはり調理されたご飯には負ける。
ただザクスの朝御飯は比較的軽いものが多く、獣の葉菜としては物足りない為、後宮専属料理師が葉菜専用のがっつりしたご飯を作ってくれることになった。
ちなみに料理師は、ひょろひょろとしたソバカスだらけの気弱そうな青年で、一度葉菜と遭遇した際その場で気絶した。何も悪さをしない、愛らしい肉食獣だというのに失敬な、と思う。
だが、メンタルの弱さはさておき、腕は確かだ。皇太子御用達の料理師なので当たり前といえば、当たり前だが。
調べてみたら虎が喉を鳴らすかは、明確になっていないらしいのですが、葉菜は鳴らせることにします。
と、いうより葉菜は白虎姿ですが、自身の魔力暴走による呪いのため、虎の習性よりも葉菜のイメージによるものの方が大きいです。葉菜は虎を大きい猫だと考えています。
だけど、タマネギ(モドキ)とかは、人間の葉菜が食べれたので食べれます。食べ物が制限されるのは嫌だという無意識の結果です。




