表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/136

獣と皇太子2

 盗賊の時といい、絶対絶命の危機を前にして、美形か不細工かなぞ考えている場合でないだろうとは思うが、考えてしまうものは仕方ない。

 こんな美形、テレビでだって見たことがない。なんせ、見方を変えれば個性やチャームポイントとなりうるような欠点が、顔のどの部分的をとっても見つからないのだ。全てのパーツが理想的な形状で、絶妙なバランスをもって配置されている。

 人形か、もしくはリアルなCGを見ているようだ。思わず手を合わせて拝みたくなる。

 かといって、「こんな美しい人に殺されるなら構わない」と思うほど乙女ではないけれども。

 

 

(……さて、どうしようか)

 

 何とかして、剣を突きつけている美形に、自分が無害だとアピールしなければならない

 これはあくまで勘だが、この美形があの不細工盗賊たちの仲間だとは思えない。顔面偏差値の差という偏見も大いにあることは否定しないが、そもそも身なりからして違うのだ。盗賊たちが着ていた服は、ツギハギもあるような古くて質が悪いものだったのに対して、美形が纏っている衣服は、服に詳しくない葉菜でも一目で良い仕立てのものだとわかる。

 盗賊の親玉、もしくは黒幕説は否定は出来ないが、復讐に駈られてこの森にやってきたという可能性は、まずないだろう。

 ならば襲いかからなければ、問題ないだろうか。否、もしこの美形が英雄思考が強い勘違い男なら、虎というだけで退治しようとするかもしれない。

 中国の英雄譚には、虎殺しの異名をもつ男の話もあったはずだ。美形さんの経歴に花を飾る為に殺されたんじゃたまったもんしゃない。

 

 

(こうなれば、腹を見せて寝ころぶしか…)

 

 腹を見せるのは動物の服従のポーズだ。

 白い毛皮の中でも、一際真っ白でふわふわな腹の毛を男に見せつけてやろう。

 巨大な虎の服従のポーズ。自分でいうのもなんだが、想像しただけでたまらなく愛らしいではないか。こんな愛らしい生物を容赦なく切りつけてくる鬼畜生なぞいない。いないと信じたい。

 

 そう思って葉菜が寝ころぼうとした時、突きつけられた剣先がおろされた。

 

 

 

(………魔獣が襲ってこないだと?)

 

 皇太子は動く気配を見せない目の前の白虎の様子に眉をひそめた。

 魔獣は巨大な力を持つゆえに、恐ろしくプライドの高い生き物だ。そしてフィレアのような特殊な例を除いては、人間では太刀打ち出来ないような攻撃力をもっている。

 剣を向けた対象が魔獣だと分かった瞬間、死すら覚悟していたのに、正直拍子抜けである。

 

(もしかしたら、誰かの契約獣だろうか。)

 

 それならば、攻撃を仕掛けてこないのにも納得が出来る。

 魔獣は気まぐれに気に入った人間と契約を結び、仕えることがある。

 そうなれば主人の意図の方が個人の感情より優先されるようになり、めったなことでは襲わなくなる。

 だが、これほどの魔獣を従える人間が、そうやすやすといるだろうか。

 対峙しているだけで圧倒されるような威圧感は、白虎が魔獣の中でも特に強大な魔力を持っていることを感じさせる。

 こんな魔力の主を従えられるのは、よほどの契約魔法の使い手ではなければ難しい。

 そう稀代の契約魔法の使い手と言われた大叔父のような。

 

 ふと、皇太子は引っ掛かりを覚えた。

 自分は大叔父の養い子を「招からざる客人」だと思っていた。だけど本当に、そうだったのだろうか。

「招からざる客人」と、この白虎。そんなに強大な魔力の持ち主が偶然この森に集まるとは考えにくい。

 よくよく考えればフィレアはジーフリートの養い子が「招からざる客人」かという問いを、肯定はしていなかった。

 加えて、ジーフリートは人間嫌いだと噂される男だ。

 

「娘」という単語に、囚われていた。

 だけど、もしかすれば

 

 

 

『――お前がジーフリート大叔父上の養い子か?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ