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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
序章

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社会不適合女とトリップ観

 晩酌を終え、空になった器をテーブルの上に放置したまま脇のベッドに寝転がる。

 片手には充電器を差したままのスマートフォン。

 ざっとSNSを確認したあと、ブックマークしているネット小説を巡る。

 ネット小説巡りは中学生のころからの葉菜の趣味だ。はじめはネット料金を考えずに巡りすぎてとんでもない料金になって親に怒られたものだが、今はパケ放題なので問題ない。

 メールや電話で定期的にやりとりをするような深い付き合いの友人もいない葉菜にとって、スマートフォンや携帯はネットをみるためのツールといっても良い。何時間でも飽きないため、休日は1日中ネットを見ているときさえある。


 ネット小説は良い。

 普通の小説よりも気軽に入手できるうえに、パターンがある程度決まっていて分かりやすい。主人公にとって都合の良い展開や、主人公の持つ都合の良い特殊能力が満載な話を葉菜は好んだ。

 努力もあるが、それ以上に運命から愛された存在であることを武器に生きて行けるというのが、羨ましくて安心する。

 努力が必ず報われるというのも、良い。

 主人公が周囲から無条件で愛されることも。

 ネット小説に浸っている間は、葉菜は自分の駄目さを忘れて、運命からもまわりからも愛された、特別な存在になれる。


「ああ、異世界行きたいなあ」


 トリップした女主人公が、神子として奮闘しながらイケメンたちに愛される小説を眺めながら嘆息する。

 異世界なら、社会に適合出来ない自分も、受け入れて貰えるんではないだろうか。


(――いや、何処にいっても同じか)


 葉菜の中の冷静な部分が囁く。

 田舎から都会にいっても葉菜は変わらなかった。変われなかった。異世界に行って簡単に変われるはずかない。

 だいたい平和な日本と、恐らくは危険まみれであろう異世界を比べて、日本ですら生きづらい葉菜が異世界に適応できるはずがない。


(だけど、もしチート能力があれば)


 魔法が使え放題だとか、光の神子だとか、何か特別な能力があれば適応できるかも知れない。


 葉菜は浮かんできた考えを即座に打ち消す。自分が特別な存在である、と廚2的な思考回路を無条件でできないくらいには葉菜は現実を知っていた。

 それに能力がいかに長けていても、葉菜がコミュ障で中身もひどい社会不適合女であることに変わりがない。今以上に孤独になるのは目に見えている。


(――だけど、もし)


 葉菜は手の中のネット小説に目を落とす。何か特別なことをしたわけでもないのに、愛されてちやほやされる女主人公。


 だけど、もし。


 だけど、もし、こんな自分でも異世界の誰かに愛してもらえたら……


「――馬鹿らしい」


 異世界トリップなんかあるはずがない。あるはずがないことを真剣に検討するなぞ、馬鹿げている。


 だいたい、何も努力もせずに、ありのままを受けとめてもらいたいなど、甘えているし、万が一そんな事態が起こっても、自分がまともに恋愛ができるとは思えない。


 顔とスタイルはそこそこな葉菜は、コミュ障ながら恋愛経験が皆無というわけではない。短期間だし、体を許すほどの深い関係にはならなかったものの、彼氏ができたこともある。


 現実の恋愛は、物語のそれと違い、ひたすら面倒臭かった。時間もお金もかかるし、いろんなことに神経を使わないといけない。相手の欠点を許し、受け入れる母性も必要だ。

 自分の世界を作って籠りたい葉菜には、恋愛すらなかなか困難だった。

 ふられた時はショックだったが、同時に安堵したのも事実だ。


 自分はきっと、自分以上に誰かを愛することはできないし、そんな自分が誰かから愛して貰えると思えない。


(本当、私は色々欠けているなあ…)


 本当に自分は社会に適合できない人間であると改めて感じる。


 それでもいい。


 社会に適合できなくても適応はできるのだから。


 自分の殻に籠りながら、諦め、開きなおり、楽しいことだけ目を向けて、辛いことは時間が経つのを待って耐えれば、取り敢えず生きて行ける。

 それが理想的な模範となる生き方でなくても。


 葉菜は嫌な方向に向かいつつあった思考回路を切り替えると、手の中のネット小説に集中する。


 明日も仕事だ。朝も早い。だけど、もう少し。きりが良いところまで…


 灯りが浸けっぱなしの汚い室内で、スマートフォンを片手にいつしか葉菜は眠りに落ちていた。

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