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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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不死鳥と過去2

 どこぞの拾い子は、ジーフリートを聖人君子のように思っている節があるが、実はジーフリートは結構いい性格をしている。

「穢れた盾」についても、明らかにわざとらしい拾い子の幼さを協調する演技についても、説明したり突っ込んだりしなかったのは、拾い子が完全に心を開き打ち明けてくれるのを待っていたというのもあるが、恐らく異世界に戸惑い針ネズミのようにビクビクと警戒しながらどこかあさってな生きる努力をする拾い子の様子を、観察して楽しんでいた部分が大きいとフィレアは思っている。

 勿論ジーフリート自身が、こんなに別れが早くなるとは、思っていなかったからだろうが。

 

 

  ジーフリートは、そういう男だ。

 

 

 悪趣味で

 

 腹黒くて

 

 屈折していて

 

 人間に対する好き嫌いが激しくて

 

 ――そして、一度懐に入れたものには、驚くほど情が深い。

 

 

 

 フィレアと契約した当時、ジーフリートは王位の第二継承権を持っていた。

 第一継承権を持つのはジーフリートの三つ上の兄であったが、母親の身分は低く、所有魔力の量からしても、ジーフリートこそが時期国王に相応しいと囁かれていた。

 ジーフリートはフィレアのために、あっさりと継承権を捨てた。

 贅沢で華美に溢れた城を出奔し、森でフィレアと二人、隠者のように生活する道を選んだ。

 

 

 争いや拒絶を繰り返しながらも、年月が流れるうちに一方的だった契約は、正式なものへと変わったのは、必然だった。

 

 

 ジーフリートはフィレアに居場所をくれた。

 

 彼という、家族をくれた。

 

 フィレア、――焔を意味する名前をくれた。

 

 50年近くもの年月を、彼の人生の殆どをくれた。

 

 

 そして、最後は、その命さえも、フィレアにくれた。

 

 

 フィレアがあげられたものなぞ、殆どないに等しいというのに。

 

 

 

(共に、滅んじまいたかった)

 

 

 不死鳥故にそれが許されぬというなら、本当に自身の血に不死の力があればと何度切望したことだろうか。

 ジーフリートと共に、命を終わらせることが出来るなら、体を流れる血が一滴もなくなったとしても構わなかったのに。

 

 

 

 単調で変化がないジーフリートと過ごす日々。

 それでもたまらなく幸せで、いとおしい、何物にもかけがえがない50年間だった。

 きっと、それは1000年続いたとしても、飽きることなくいとおしいままだ。

 

 

 いっそ、幸せなぞ知らなければ良かった。

 知らなければ、こんな風にジーフリートを喪ったことに、耐えられない喪失感を感じて苦しむこともなかった。

 孤独にただ苦痛のなかで死を待つことが、当たり前のまま生きられた。

 

 

 

(あぁ、でももし過去に戻れたとして)

 

 

 もし50年前の、あの日に戻れたとして。

 ジーフリートと出逢う道と、出逢わない道を示されたとしても

 

 

(きっと俺は、出逢う道を選んじまうだろう)

 

 

 たとえ彼を喪った残りの750年もの歳月が、どれほどの絶望の日々か分かっていても。

 

 

 

「ジーフリート」

 

「ジーフリート」

 

「ジーフリート」

 

 

 何度宙に呼びかけても、声がかえってくることはない。

 当たり前だ。ジーフリートは、確かに死んだ。不死鳥である自分を捕まえにきた盗賊に首を切られて。

 フィレアはジーフリートが作り出した「主従の間」の中で、それを見ていたのだから。

 

 

 出せ、と叫んだ。

 自分はどんな目にあおうと死なないのだから、とらえられても構わないと、だからその傷を癒させろと、契約により繋がっているその意識に訴えた。

 それなのに、ジーフリートはけしてフィレアを外に出さなかった。フィレアを傷つけたくないのだと、そう言って。

 

「……大馬鹿野郎」

 

 何故ジーフリートを喪う方が辛いのだと、分かってくれなかったのか。

 とらえられ、ジーフリートから引き離されて、遠い見知らぬ地で苦痛の日々を送っても構わなかった。

 ジーフリートが、生きてさえいてくれるのなら。

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