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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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皇太子と不死鳥

(見つからない、見つからない、見つからない!!)

 

 皇太子は例の小部屋の奥で苛立ちに任せて、各地から送られてくる報告書を破り棄てた。

 

 

 四ヶ月だ。四ヶ月もの間、皇太子が自身の持つ権力や財産を駆使して、ファルス大陸中を探させたのに、いまだ「招かれざる客人」の行方は掴めなかった。

 グレアマギ帝国内はもちろん、プラゴトやナウトにも密偵を派遣したのに、僅かな目撃証言すら得られない。

 

 ファルス大陸以外のべつの大陸に落ちたとは、考えにくい。

 ならば考えつくのは。

 

 

(既に先を越され、存在を秘することが出来るほど有力な誰かの囲いものになっているか、だ)

 

 

 皇太子はギリと、形が良い歯を擦りきらんばかりに噛み締めた。

「招かれざる客人」の存在は、グレアマギ国のものならば一度会えば誰でもすぐそれとに気がつく。

 感知能力が低いものでも、その体に一度触れれば、皮膚を通じてそれが持つ力が勝手に伝わってくるからだ。

 それほどまでに、その存在が持つ力は膨大であり、また、異質でもある。

 

 そんな、派手な目印を垂れ流している「招かれざる客人」の情報はまったく流れてない以上、既に他のものの手に渡っただとしか考えられない。

 ただの利潤追求者か、もしくはコレクション目的の好事家なら、まだよい。問題は、それが男と敵対するものに渡った時だ。

 

 皇太子は艶やかな漆黒の髪をかきむしった。

 時間がない。あと八ヶ月しか皇太子には残されていない。それまでに傀儡を手に入れなければならない。

 別に同等かそれ以上の力があるならば、「招かれざる客人」でなくとも構わない。ファルス大陸に国家が成立する以前、古の権力者が契約したとされる、悪魔にだって契約する。

 例えその代償が自身の魂で、死後永遠の従属が待っていようが構いやしない。

 

 皇太子の望みはただひとつ。

 それを、叶えるためならどんなことでもする。

 

 

「――っ」

 

 

 不意に室内に膨大な力を入り込む気配を感じた。まさか、願いが通じて悪魔が召喚されたか、そんな馬鹿げたことが頭をよぎったが、当然ながら現れたのはそんなものではなかった。

 現れたのは、焔を身にまとったかのような真紅の美しい鳥。

 鳥は皇太子の方を向くと、そのくちばしを開き――

 

 

「…なに呆けた顔をしてやがる、クソ皇太子。ここが元々誰の部屋だったか考えりゃあ、俺が入り方を知っていてもおかしくねぇだろうが」

 

 

 ――その気高い姿には似つかしくない暴言をはいた。

 

 

「……あいかわず口が悪いな。フィレア」

 

「てめえがその名前で俺を呼ぶんじゃねぇ!!」

 

 

 フィレアは足を踏み鳴らしながら威嚇するも、すぐに不機嫌そうに舌打ちをして顔を背けた。

 

「こんな胸糞わりぃところ一刻も早く出てぇから、用件だけいうぞ。…ジーフリートが死んだ。盗賊に襲われてな」

 

「…そうか。大叔父上が死んだか」

 

 フィレアの言葉に、皇太子は驚かなかった。フィレアの姿を見た時点で、その言葉は予想していた。

 寧ろ、かくも長い間もったものだと思う。誰もが欲しがる、万病を癒す力を有した「不死鳥」であるフィレアと、半世紀近くもの長い間契約し、傍においていたというのに。

 

 

「はっ、あいつも老いたな!!少し魔力が不安定になったくらいで、結界に綻びを作りやがった。昔のあいつなら、んなヘマはけしてやりゃしなかったのに」

 

「…………」

 

「その癖俺を『従獣の間』に閉じめやがった!!戦闘に関してはたいした力も持たねぇ、軟弱野郎の癖によ!!それでおっちんじまうとか、自業自得としか言えやしねぇ。本当にあいつは最後まで大馬鹿野郎だ」

 

 

 フィレアの吐き捨てる罵りに、皇太子は沈黙で返した。

 その罵りのなかに、隠しきれないどうしようもない悲痛な叫びが混ざっているのを感じたからだ。

 この気高い獣は、皇太子に慰められるのも、弱い部分を晒すこともよしとしないだろう。

 フィレアがそれを許したのは、ただ一人、 ジーフリートだけだ。

 

 

 フィレアは感情が漏れでていることに自分から気づき、すぐさま口をつぐんだ。そして少し失敗した舌打ちを鳴らすと、再び皇太子に向き直る。

 

「……んなことはどうでもいいな。それより、ジーフリートから遺言だ。いつか自分の身に何かあった時に、てめえに伝えろと言われていた」

 

「遺言…?」

 

 

「――『娘』をお前に託したい。よろしく頼む、だとよ」

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