社会不適合女と危機
子どもの頃、習い事で一人で遅い時間で帰っていたりすると、ふと怖い想像囚われてしまったことがあった。
『もし家に強盗が入り込んでいて、家族をみんな殺して自分を待ち構えていたらどうしよう』
死体と体面する自分。
泣き崩れるか、逃げようとするか。
犯人が凶器を持って現れたらどうしよう。
戦えるだろうか。逃げ出せるだろうか。
そんなことを考えるうちに、いつの間にか家についていて。
おそるおそる扉を開けると、当たり前だけど、何事もなくいつもの家族がいて、「おかえり」と言ってくれた。
当たり前の日常が、そこにあった。
そう、強盗が家を襲うなんて、ただの妄想。
恐怖の考えに怯えながらも、フィクションに惹かれていた少女の、暇潰し。
そんなこと、異世界トリップよりも、あり得ない。
――ああ、なのになぜ
傷ついたジーフリートは、武器をもった見知らぬ男たちに、拘束されているんだろう。
『なんだ、まだ誰かいたのか』
とっさに固まって動けずにいた葉菜は、逃げる間もなく、近くにいた男に捕まってしまった。
(あ、ブサイク)
事態をよく分かっていない脳は、異世界で二番目に会った人間である、男にたいしてそんな場違いな評価を下す。
汚ならしい不精髭や伸ばしっぱなしの髪形も問題だが、パーツがいただけない。一つ一つがいびつで、バランスが悪い。西洋人顔ならば、良いってもんではない。
ただ異世界の美的基準がわからないので、もしかしたら、男がこの世界では超絶美形なのかもしれない。
拘束していない方の男の手が、葉菜の顎をつかみ顔をのぞきこまれた。
ブサイクのアップは、いただけない。
『ふぅん…ガキだがまあ見られるツラしてるな。売り飛ばせばそれなりの金にはなるか』
『やめろ!!その子には手をだすな!!』
『じいさん、あんたが素直に情報を吐いてくれればな』
(あ、私この世界にでも、それなりに見られる顔はしてるんだ)
必死に庇ってくれているジーフリートには申し訳ないが、あさってな方向の思考回路が止まらない。
もとの世界でも、まあまあかわいらしいと称された葉菜の容姿の評価がこれなら、おそらく美的基準は葉菜の持っているもの同様だろう。(実は自分がもとの世界でブサイクよりだったとか、そんな衝撃の事実はないはずだ)
よって男は、この世界でもブサイク、ジーフリートはイケメン。これが正解だ。
『…なあ、お嬢ちゃん』
現実逃避的な思考は、男に声をかけられたことでぶった切られた。
『お嬢ちゃんは、――のありかを知っているかい?』
『え…』
ここにきて、知らない単語が出てきてしまった。
どうやら男はなにかを探してジーフリートを襲ったらしいのたが、なにかがわからなければ答えようがない。
『その顔じゃ知らないみてぇだな。…仕方がない。お嬢ちゃんをつかって、じいさんに聞くしかないな』
『やめろ!!!!』
『そう言うなら、さっさと話すことだな。……お嬢ちゃん恨むなら、話さないじいさんを恨みな』
そう言いながら男は、葉菜を地面に叩きつけ、上から覆い被さってきた。
『なんだ、リック。んなガキに手ぇだすのかよ。趣味悪ぃな』
仲間らしき男のからかいの野次が飛ぶ。
『こんな森を何日も歩き回らされるから、溜まっちまってよ……お嬢ちゃんも痛いより、気持ちよい方が良いだろう?』
(いや、こっちの展開も、はじめてなら十分痛いと思います。子どもならなおさら)
流石の葉菜も、これが凌辱ルートであることは察しがつく。
ジーフリートに情報を吐かせるために、子どもを強姦。下衆の極みだ。
生きるためには売春も覚悟はした身。痛めつけられたり、殺されるよりはましかもしれない。いや、強姦された後で、痛めつけられたり、殺されたりするかもしれないが、商品候補にそんなことはしないと思って、今は堪えよう。
めちゃくちゃ嫌で、嫌で仕方がなくて、涙が滲んできていても。どうしようもなく怖くて、顎がかちかちなって体が震えていても。
処女喪失(予定)の相手は、ゲスなブサイク。
(こんなことなら、夜中ジーフリートの部屋に忍びこんで乗っかって食ってしまえば良かった…!!)
葉菜は相変わらずどこかずれた後悔を噛みしめると、全てから逃避するように、強く目を瞑った。




