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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と危機

 子どもの頃、習い事で一人で遅い時間で帰っていたりすると、ふと怖い想像囚われてしまったことがあった。

 

『もし家に強盗が入り込んでいて、家族をみんな殺して自分を待ち構えていたらどうしよう』

 

 

 死体と体面する自分。

 泣き崩れるか、逃げようとするか。

 犯人が凶器を持って現れたらどうしよう。

 戦えるだろうか。逃げ出せるだろうか。

 

 

 そんなことを考えるうちに、いつの間にか家についていて。

 おそるおそる扉を開けると、当たり前だけど、何事もなくいつもの家族がいて、「おかえり」と言ってくれた。

 当たり前の日常が、そこにあった。

 

 

 

 そう、強盗が家を襲うなんて、ただの妄想。

 恐怖の考えに怯えながらも、フィクションに惹かれていた少女の、暇潰し。

 

 そんなこと、異世界トリップよりも、あり得ない。

 

 

 ――ああ、なのになぜ

 

 

 

 

 

 傷ついたジーフリートは、武器をもった見知らぬ男たちに、拘束されているんだろう。

 

 

 

 

 

 

『なんだ、まだ誰かいたのか』

 

 とっさに固まって動けずにいた葉菜は、逃げる間もなく、近くにいた男に捕まってしまった。

 

 

(あ、ブサイク)

 

 

 事態をよく分かっていない脳は、異世界で二番目に会った人間である、男にたいしてそんな場違いな評価を下す。

 汚ならしい不精髭や伸ばしっぱなしの髪形も問題だが、パーツがいただけない。一つ一つがいびつで、バランスが悪い。西洋人顔ならば、良いってもんではない。

 ただ異世界の美的基準がわからないので、もしかしたら、男がこの世界では超絶美形なのかもしれない。

 拘束していない方の男の手が、葉菜の顎をつかみ顔をのぞきこまれた。

 ブサイクのアップは、いただけない。

 

『ふぅん…ガキだがまあ見られるツラしてるな。売り飛ばせばそれなりの金にはなるか』

 

『やめろ!!その子には手をだすな!!』

 

『じいさん、あんたが素直に情報を吐いてくれればな』

 

(あ、私この世界にでも、それなりに見られる顔はしてるんだ)

 

 

 必死に庇ってくれているジーフリートには申し訳ないが、あさってな方向の思考回路が止まらない。

 もとの世界でも、まあまあかわいらしいと称された葉菜の容姿の評価がこれなら、おそらく美的基準は葉菜の持っているもの同様だろう。(実は自分がもとの世界でブサイクよりだったとか、そんな衝撃の事実はないはずだ)

 よって男は、この世界でもブサイク、ジーフリートはイケメン。これが正解だ。

 

 

『…なあ、お嬢ちゃん』

 

 現実逃避的な思考は、男に声をかけられたことでぶった切られた。

 

  『お嬢ちゃんは、――のありかを知っているかい?』

 

『え…』

 

 

 ここにきて、知らない単語が出てきてしまった。

 どうやら男はなにかを探してジーフリートを襲ったらしいのたが、なにかがわからなければ答えようがない。

 

『その顔じゃ知らないみてぇだな。…仕方がない。お嬢ちゃんをつかって、じいさんに聞くしかないな』

 

『やめろ!!!!』

 

『そう言うなら、さっさと話すことだな。……お嬢ちゃん恨むなら、話さないじいさんを恨みな』

 

 そう言いながら男は、葉菜を地面に叩きつけ、上から覆い被さってきた。

 

『なんだ、リック。んなガキに手ぇだすのかよ。趣味悪ぃな』

 

 仲間らしき男のからかいの野次が飛ぶ。

 

『こんな森を何日も歩き回らされるから、溜まっちまってよ……お嬢ちゃんも痛いより、気持ちよい方が良いだろう?』

 

 

(いや、こっちの展開も、はじめてなら十分痛いと思います。子どもならなおさら)

 

 

 流石の葉菜も、これが凌辱ルートであることは察しがつく。

 ジーフリートに情報を吐かせるために、子どもを強姦。下衆の極みだ。

 生きるためには売春も覚悟はした身。痛めつけられたり、殺されるよりはましかもしれない。いや、強姦された後で、痛めつけられたり、殺されたりするかもしれないが、商品候補にそんなことはしないと思って、今は堪えよう。

 

 めちゃくちゃ嫌で、嫌で仕方がなくて、涙が滲んできていても。どうしようもなく怖くて、顎がかちかちなって体が震えていても。

 

 

 処女喪失(予定)の相手は、ゲスなブサイク。

 

 

(こんなことなら、夜中ジーフリートの部屋に忍びこんで乗っかって食ってしまえば良かった…!!)

 

 

 葉菜は相変わらずどこかずれた後悔を噛みしめると、全てから逃避するように、強く目を瞑った。

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