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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女とお礼2

 一時間も経つ頃には、篭のなかが一杯になっていた。採集した実は、葉菜が知っていて美味しいと分かっている実も混ざっているが、8割方、毒性の有無も、美味しいかも分からない実である。

 これはフィレアへの嫌がらせも兼ねているが、半分は自分の知識を増やすためでもある。

 木の実はフィレアに食べさせる前に、ジーフリートが危険なものが混じってないか確認するはずである。その時にさりげなくジーフリートに実のことを訊ねて、何が食べられる木の実か聞いておけば、また何らかの理由でサバイバル生活を送る羽目になった時に役に立つ。

 

 

 いったん採集の手を止め、川原のほとりで休憩をとることにした。

 水で喉を潤した後、おやつ代わりに、リンゴとよく似た味がする黄土色のアフェの実をかじりながら、清涼な川の流れを眺める。

 葉菜は見たことがないが、もう少し下流まで歩くと川は滝壺に繋がっているらしい。危険だから近づかない方がいいと、家を出る前からジーフリートに念押しされたことを思うと、かなりの高さがあるようだ。

 ただでさえ広い森。わざわざ言いつけを破ってまで、ただの滝を見たいという好奇心も、疲労をいとわない無邪気さも葉菜は持っていないため、向かおうとは思わないが。

 

 

(だいたいファンタジーの世界で言いつけを破るのは、ろくなはめにならんのだ)

 

 開けては行けないと言われた部屋の扉を開けた青髭の妻しかり。

 触ってはいけないと言われた糸紡ぎを触った茨姫しかり。

 タブーを犯すのは物語の契機であり、必要要素ではあるが、直接的にもたらされる結果は悲劇であることが多い。ジーフリートの家で穏やかに過ごすことを望む葉菜は、そんな死亡フラグを立てる愚はおかさない。

 

 

「さあて。もう一頑張り!!……万が一食べられない木の実ばかりだったら、流石にフィレアが可哀想だから、知っている実も増やしてやるか」

 

 

 葉菜は立ち上がると再び採集を再開した。

 

 

 

 

 

 日が暮れ始めたのを見て、葉菜は家路につくことにした。

 方向音痴ではあるが、太陽の方角を常に必死に確認し、木の枝も折り、さらにヘンゼルとグレーテルのように、ところどころに真っ白な石を落としながら採集にあたっていたため、森の中で迷子になる心配はない。備えあれば憂いなしである。

 音程が外れた調子で(葉菜は残念ながら音痴でもある)、少女が熊と遭遇する縁起でもない童謡を唄う。収穫物が山盛り詰まったか篭の重みに、笑みが溢れる。

 収穫物を持って誰かが待つ家に帰るのは嬉しいものだ。

 ジーフリートは、きっと誉めてくれるだろう。

 フィレアはちゃんと自分が採ってきた実を食べるだろうか。いや、何も気付かず食べるはずだ。

 

 そう考えると、嫌がらせとかを考えていたというのに、待ち遠しいようなくすぐったいようや温かい気分になる。

 

 早く、家に帰りたい。

 

 家が、「我が家」が見えてきたので、小走りで向かう。

 自分は子どもだから、と内心言い訳をしながら、勢いよく扉を開いた。

 

『ただいまぁ!!』

 

 ジーフリートがきっと、穏やかにお帰りと告げてくれると思いながら。

 

 しかし

 

 

『…っ!!逃げろっ、ハナ!!』

 

 

 返ってきたのは今まで聞いたことがないほど切迫した、ジーフリートの叫びだった。

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