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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女とお礼

 信じない、信じないと自分に言い聞かせながら、本当はもうとっくに信じていた。

 期待していた。

 

 いつかは自分が、ジーフリートやフィレアと「家族」になる日が来ることを。

 

 全てを打ち明けて、受け入れられる日が、月日を重ねればやってくるだろうと思っていた。

 

 

 根拠もなく、ジーフリートが自分を捨てることさえなければ、ずっと一緒にいられると、そう信じてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 手には木のつるで編んだかご。

 頭の上からすっぽり覆う赤いケープ。

 洗い晒しのワンピース。

 

 

「慣れたけど……なんて赤ずきんちっくな格好だろうね」

 

 

 葉菜は川にうつった自分の姿を見ながら、しみじみと呟いた。

 24歳の赤ずきんコスプレは、なかなか痛い。例えそれがジーフリートが用意してくれたものだろうとも。森には大型肉食獣がいないため、狼と遭遇する可能性がないのが救いか。

 

「…まあ、いい。さーて、採集、採集」

 

 

 気を取り直して、辺りにある木を観察する。狙う獲物は、甘い木の実。特に鳥が好みそうな小粒のもの。

 葉菜は今日、フィレアの為の木の実を採る為に森に出向いていた。

 

 

『お礼ならフィレアに言ってあげるといい。フィレアのお陰で熱が下がったんだよ』

 

 

 熱が下がった翌朝、看病してくれたジーフリートにお礼を言った葉菜にジーフリートが返したのは、葉菜が自身の翻訳能力を思わず疑うような、そんな言葉だった。

 フィレアが、鳥が、何をすれば、葉菜の熱を下げさせると言うのか。

 問い質しても、ジーフリートはただ笑うばかりで答えない。

 

『フィレアも素直じゃないから、きっとハナがお礼を言っても聞かないだろうから…そうだな。お礼がわりに森からフィレアのご飯を、ハナが採ってくるっていうのはどうだい?勿論食べるまではフィレアに内緒で』

 

 そう言っていたずらっぽく笑ったジーフリート。普段は見せない少年っぽい表情に、思わず胸キュンしてしまい、気がつけばよくわからないのに頷いていた。

 今日は6日に一度の休息日。(どうやら休日の概念はこちらにもあるらしい)

 働きもののジーフリートも、仕事をやめ、一日ゆっくり家で過ごす為、手伝いは必要ない。家事もおやすみで、食事ですら前日の作りおきのものを食べる。

 だから、葉菜が森に出掛けても何も問題がないのではあるが。

 

 

(フィレアにプレゼントか…)

 

 

 葉菜の視線に入るのは、サバイバル初日に見つけた赤い実。艶々と美しい光沢をもつそれは、ラプの実といい、『腹下しの実』とも言われる有毒の果実だ。致死性はないものの、一口で大の男が三日三晩は嘔吐と下痢で苦しむ羽目になる。

 果実は甘く、毒に耐性もある動物も色々いるため、葉菜があの時手をださなかったのは本当にたまたまなのだが、ジーフリートにラプの実の話を聞いた時は自分の強運もとい野性の勘に感謝した。

 

(これをフィレアにあげたら…)

 

 

 あのすかした顔が歪むのだろうか。

 そんな悪巧みが脳裏をよぎるも、伸ばしかけた手をすぐに引っ込める。

 わけはわからないながら、自分はフィレアに救われたらしい。

 恩をあだで返すのは良くない。

 

 

 葉菜は後ろ髪を引かれる思いでラプの実から視線を離すと、他の食べられそうな実を探した。


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