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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と居候生活8

 どれだけ泣いただろう。

 落ち着いてくると、流石に花瓶を割ったくらいでこんなに泣いてしまったことが恥ずかしくて、ジーフリートの胸から顔をあげづらい。

 そんな葉菜に気付いたのか、ジーフリートは葉菜の背中を掌であやすように優しく叩いた。

 

『ハナ、顔をあげて』

 

 おずおずと顔を上げると、ジーフリートは葉菜の髪をくしゃくしゃに撫でてくれた。思わず、小さな笑みが零れると、ジーフリートは満足げに目を細めた。

 

 

『やっぱり、ハナは笑った顔が一番可愛い』

 

 

(――誰かこのイケメンじいさん何とかしてくれ)

 

 葉菜は耳まで真っ赤になりながら、本気で老け専に目覚めそうだと、脱力した。

 

 

 割れた花瓶を片付けると、葉菜はジーフリートが狩って解体してくれていた猪もどきをスープにすることにした。

 

 もどきもどきと言っているが、当たり前だが、この世界の正式名称はある。確か猪もどきはボアレとかそんな名前だ。ただ、あまり口数が多くないジーフリートは固有名詞をいうこともそれほどなく、聞けば何となく分かる程度で特に問題ない知識なので熱心に記憶はしてない。

 つまり、うろ覚えなのだ。

 

 

 話は戻す。流石に解体までは付き合わされたくなかった葉菜は内心感謝しながら、ジーフリートが細かくしてくれた肉塊をさらに小さく切った。それでもなかなかの重労働だ。

 スープストックを入れたら肉の味が強くなり過ぎる気がするので、水とジーフリートさん秘蔵の酒(飲兵衛の葉菜としては是非一口頂いてみたいところだが、年齢詐称の出前自粛している。ジーフリートさんはあまり呑まないらしく、料理でじゃんじゃん使用する許可が出ている…勿体ない)、塩、紫色の唐辛子擬き、ニンニクゴマ、香草数種類、野菜を入れて、灰汁を取り除きながら煮込んでいく。味噌があれば良いのだが、流石にないし、葉菜に作る能力もない(大豆を蒸して麹で発酵させる程度の知識しかない。)のだから、あるもので代用する。

 せめてもの臭み消しに、しょうがに良く似た根菜をすりおろして混ぜた。

 

 

 食料事情があまり良くないこの世界では、ご飯は一日二食、品数も少ないのが普通だ。

 一応添えものとして、パンと、塩漬けの野菜を出せば夕飯としても十分だ。

 

 

 肉は固くて、臭みもあり、汁は淡白だったが、まあまあ美味しかった。ジーフリートも満足そうに食べてくれているから、異世界でも特に奇抜な味にはなっていないようだ。

 肉は熟成した方がイノシシ酸だかが出て美味しくなるというから、2、3日置いといた方が良いかもしれない。グルタミン酸との相乗効果を考えると、植物性のだしも欲しいところだ。

 少し前に、ジーフリートが干し茸を作っていたから、次はあれを貰って出汁にしてみよう。

 

 片付けをして、ご衛門風呂のような風呂釜にお湯を沸かして交互に浸かる。なかなか手間なので、お風呂は三日に一度ほどで、普段はお湯で湿らせた布で体を拭いている。

 衛生国家日本の女の子として、耐えられない!!…と言いたいところだが、面倒で休日なんかは風呂に入らないことなどざらだった葉菜には何の問題もない。ジーフリートに臭いと思われたら嫌なので布で体を拭くのは、ちゃんと毎日やっているが。

 

 

 洗濯は週一回、纏めて。服は2、3日同じものを。

 

 正直に言おう。――楽だ。

 

 

 

 さて久し振りのお風呂が終われば、寛ぎタイム。

 お待ちかねの、異世界のお勉強の時間である。

 


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