社会不適合女と居候生活6
食事が終わると、自家農園の手入れを手伝う。
ほとんどが手慣れたジーフリートがやってくれて、葉菜がするのは本当に子どもの手伝い程度なのだが、普段はしない肉体労働なだけにすごく働いた気がするから不思議だ。
ジーフリートが今朝のスープにも入れたトマトもどきを収穫しながら、一つ放ってくれた。食べて良いということらしい。
実は葉菜は生のトマトが苦手だ。火を通したり、ドレッシングをかけて他の野菜といっしょにすれば食べれるし、美味しいとも思えるのだが、単独で丸かじりは無理だ。青臭さにえづきそうになる。
だけど、好き嫌いをするような子どもを可愛いと思うだろうか。
もし葉菜が食糧事情が良くない状態で、なけなしの食糧をわけてあげた子どもが、これは食べられない、嫌いだなんてほざいたら間違いなくぶん殴る。
『……お、いしい、おいしい』
葉菜は涙目になりながら、トマトもどきをかじった。フルーツトマトみたいに特種な甘みもない、想像した通りのトマトの味である。
(食べられるのが幸せ。栄養も豊富。味も普通のトマトなんてラッキー。もしかしたら異世界補整でとんでもない味がしたかもしれないし)
かじっているトマトもどきを称賛する理屈を並べて、必死に飲み込むが、苦手なものは苦手である。
えづきかけるのを必死に堪えて、飲みこんで、笑ってみせる。
そんな葉菜に、優しく微笑んだジーフリートは、隣の茂みから木苺に似た実を摘んで葉菜に渡してくれた。
木苺に似た実はまだ熟してない緑色のものが多く、明らかにまだ収穫時期ではない。そんな中で、赤くなっている数少ない実を5つほど葉菜の手にのせる。
無理はバレバレだったらしい。
『大丈夫。ハナはよいこだよ』
優しいジーフリートの言葉と、自身の情けなさに泣きそうになる。
ジーフリートが摘んでくれた木苺擬きは、かなり酸味が強かったが、それでもとても美味しかった。
農園から帰るとジーフリートは狩りに出掛けた。その間の葉菜の仕事は家の掃除だ。
葉菜は掃除が嫌いだ。片付けが苦手で元の世界の自分の部屋など、かなり悲惨な汚部屋と化している。勤務先だった店舗の掃除の仕方も、雑だの適当だの良く怒られた。
だが、ここは異世界。そしてジーフリートの家である。それが、生きるための仕事ならば、気合いをいれて掃除せねばなるまい。
そして掃除の監督者は、厳しい上司や先輩ではなく、優しいうえに、葉菜を子どもだと思っているジーフリートである。
いつお客様がくるか、別の仕事が舞い込んでくるか、わからない状態で効率化まで要求される元職場と違い、たっぷりの時間集中して作業ができる。
作業中の葉菜を誘惑する、漫画もネット小説もない。
(大丈夫だ……私はやればできるこなんだ…!!)
箒やはたき、塵取りや雑巾などは異世界でも共通しているし、使い方も慣れた。何の問題もない。
(掃除は上から下に。隅も忘れず)
会社で怒られ、教え込まれた当たり前と言えば当たり前のことを反芻しながら、一つ一つ作業をこなしていく。一般的なスピードはわからないが、最初の頃に比べたら、順調である。
葉菜が借りている部屋、階段、居間、台所と順を追って掃除していく。
掃除はジーフリートが狩りに出掛ける度にしているので、そう汚れては居ない。
自分の部屋までちゃんと掃除が習慣づいた自分に、葉菜は自画自賛した。元汚部屋住人にしては大した進歩である。
全てはジーフリートに嫌われ、追い出されたくない一心故だ。
最後の掃除場所が、ジーフリートの部屋である。ジーフリートの許可をとっているが、粗相をしないかいつもひどく緊張する。
葉菜が掃除道具を片手にジーフリートの部屋に入った途端、猫の出入り口のように押せば開く構造になっている窓から、フィレアが飛び立っていった。
居座られても困るのだが、少し腹立たしい。
(しかし、いつ見ても糞を撒き散らかしていないのが不思議だ)
床は勿論、止まり木にも糞をした跡がない。
鳥にトイレトレーニングなど可能なのだろうか。
やはりフィレアはただ者、いや、ただの鳥ではない。




