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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と居候生活5

「…だけどね、フィー」

 

 フィレアが自分の話など聞く態度は見せないのは100も承知で、葉菜はフィレアに日本語で話しかける。

 浮かべる笑みは、恐らく子どもは浮かべないであろう歪な嘲笑。

 向けた先はフィレアか、はたまた己れにか。

 

「例えお前が私をどんなに嫌おうが、私はジーフリートさんが私を捨てるまで、この場所にしがみつくよ。」

 

 

 葉菜を拾ったのはジーフリート。

 捨てるのは彼の自由だ。この場所で家主も彼だ。仕方ない。

 だけど、それはフィレアの権利ではない。

 ジーフリートが、フィレアを優先して葉菜を廃除しようとするのならともかく、ジーフリートが動かない以上、フィレアには葉菜を追い出すことが出来ないのだ。

 

 しょせん葉菜もフィレアも、ジーフリートの庇護下にある身。立場は変わらない。

 

 今の葉菜には、ジーフリートしか頼る縁がない。仕方なしにならともかく、自分から居心地がよい場所を抜け出して、何が起きるかわからない未知の世界へ行こうなぞとは思わない。

 葉菜はジーフリートが葉菜を拒絶するまでは、名一杯甘えて寄りかかる気満々であった。

 

 ジーフリートと出会えたのは、そこに何かしらの異世界補整があったにしろ、砂漠でオアシスを見つけたくらいの奇跡だと思っている。

 ならばその幸運を、利用できるだけ利用しなければ勿体ない。次に同じ幸運が訪れる保証はないのだから。

 

 例えフィレアに嫌われようが、蔑まれようが、葉菜はジーフリートにすがる。差し出してくれた手にしがみつき、振り払われるその時まで、けして離さない。

 ジーフリートを心から信用するか、否かとは、それは別問題である。

 

 

 

 ふとフィレアの方を見ると、珍しくフィレアが葉菜を見ていた。

 オレンジ色の瞳が、射抜くように葉菜に向けられていた。まるで睨み付けるかのように。

 

 

 葉菜はそんなフィレアの様子に一瞬たじろぐも、すぐに気を取り直し、フィレアを睨み付け返す。

 

 

(深紅の羽毛が、まるで漫画の心理描写の炎みたいだ。)

 

 そんなずれたことを考えながらも、視線はフィレアに固定し、反らさない。

 

 

 絡み合う視線。どれ程の時間睨みあっていただろうか。

 

 

 葉菜は深いため息とともに、視線を反らした。

 

 

(鳥相手に本気で張り合うとか、なにやってをんだか、私)

 

 馬鹿馬鹿しいと言うようにふった首は、すぐさま固まる。

 

 

 視界の端でフィレアが、『こんな相手に本気になるなんて馬鹿馬鹿しい』とでも言うように、葉菜同様、首を降って息を吐いていたのが見えたからだ。

 

 

(――っの、クソ鳥)

 

 

 何とかして、一度あのすました顔を、歪ませてやらなければなるまい。

 

 

(やはりその為には、この家で…いや、ジーフリートさんの中で、フィレア以上の存在にならなくては…やっぱり後妻にして貰うのが一番良いか?でもジーフリートさんの前で子どものふりをしているからな~…ジーフリートさんにロリコンの性癖を植え付けるには…―っと、まずい。フィレアが威嚇態勢に入りやがった)

 

 

 アホなことを考えているうちに、その不穏な思考を察したのか、近づいてもいないのにフィレアが威嚇するように羽を広げ始めた。つつかれるのは時間の問題だ。さっさと退散しよう。

 

 

 真面目で深刻な思考が続かない切り替えの早さは、葉菜の美点であり、どうしようもない点でもある。

 ネガティブな思考に囚われて常に鬱々としている状態にならない代わりに、自分の行動を省みて深く反省し、悔い改めることもない。すぐ忘れる。結果、葉菜は葉菜のままかわらない。成長もしない。

 

 つまり、ひたすらどうしようもないくらい、いい加減なのだ。

 

 

 葉菜は先ほどまでの、暗く泥ついた自己嫌悪も忘れて、足早に部屋を後にする。

 ただひとつ確かなのは。

 

(ジーフリートさんの後妻なれたら、フィレアはどんな反応するかなー。目に見えて嫉妬するのを、本妻の余裕で鼻で笑ってやったりして。ふはは)

 

 

 心から信用出来なくとも、ジーフリートは今のところ、葉菜が出会った中で、1、2を争ういい男であるということだ。

 

 

 爺趣味と言いたければ、言え。

 何の計算もなく(恐らくそれが正しいことは葉菜だって分かっているのだ。ただ、信じきれないだけで)葉菜なんかを救い上げてくれるような聖人君子。(しかも顔はイケメン)

 

 40くらいの年の差なんか頭から放り出して、掴まえて傍にいられる口実に、結婚を考えても仕方ないだろう。

 

 

 


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