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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と居候生活4

 フィレアの瞳は、鮮やかなオレンジ色だ。そんな明るい色の瞳なのにも関わらず、その瞳は熱を感じさせず、態度以上に雄弁に葉菜を侮蔑している。

 

 

『良い歳をした大人が子どものふりをするなんて、恥ずかしいと思わないのか』

 

『恩人すら信じられないなんて、情けない』

 

 

 被害妄想かもしれないが、確かにフィレアはそう言外に告げているように感じる。

 

 

(――分かってるさ)

 

 

 いかに自分が矮小で、他人を心から信じられない淋しくも情けない人間かなんか、示されなくても葉菜が一番分かっている。

 

 

 他人に優しく庇護してもらえているという状況がいかに幸運かも、分かっている。

 

 

 もし自分が、今まで自分が読んだ異世界トリップ小説の主人公のようだったら。

 

 明るく、強く、素直で、慣れれば異世界でも何かしらの仕事をスムーズにこなせる能力があって、異世界の人々を受け入れ受け入れて貰えるコミュニケーション能力も持っている、

 

 

 そんな、愛すべき存在だったら。

 

 

 

 きっと葉菜は、ジーフリートに何の疑いもなく真っ直ぐな感謝と好意を示すのだろう。24歳の、一人の立派な淑女として。

 ジーフリートもそんな葉菜を愛してくれて、フィレアも葉菜になついて。特に大きなことはなくても、穏やかで暖かい日常が続いて。

 異世界から来たことを告げるべきか悩みながらも、そんな悩みもまるごと含めていつのまにか「家族」になっていたのかもしれない。

 

 

 

 だけど葉菜は葉菜で。

 

 

 異世界に来る前も来た後も、社会にうまく馴染めない、何にもない小さな人間で。

 

 

 

 葉菜は、『信じない』

 

 

 信じないことが、何もない自分が異世界で生き残るための唯一の手段だと思っている。

 

 

 信じれば、望む。期待する。

 期待すれば、裏切られた時立ち上がれなくなる。

 

 

 信じて裏切られるくらいなら、信じないで不義理で淋しい人間でいる方がましだった。

 別に今までの人生で、誰かから裏切られたトラウマもない癖に(せいぜいあったとしても、ペア決めの時に一番の友人が別の友人とペアを組んでいたとか、自分でも思い出せないような些細な記憶だ)人を信じきれない自分を、愚かだというなら言えばいい。

 

 自分が傷付かないために、自分が生を心底絶望しないために、葉菜は他人に心を預けず、拒絶することで武装する。まるで針鼠のように、見えない針の毛皮を見に纏い、柔らかく傷付きやすい部分には誰にも触れさせない。

 

 

 それに、ネガティブで最悪な想定は、そこそこ恵まれた現実とのギャップによって、葉菜に相対的な「幸福」を感じさせた。

 

(最悪こうなってたのかもしれないのだから、今の現状はなんて幸せなんだろう)

 

 そう思うことで、小さな目の前の幸福に感謝し、満足する。そんなネガティブなのかポジティブなのかわからない考え方が、24年間で培った葉菜の精神安定装置である。

 

 

 なんて醜く、エゴイスティックな自分。

 

 

 自覚はしていても、開き直ってそんな自分を肯定していても、真っ直ぐに向き合いたいものではない。

 

 

 だから、そんな自分の汚さを見透かし、突き付けてくるようなフィレアが、葉菜は嫌いだった。

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