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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と居候生活3

 葉菜はスタイルは悪い方だとは思わないが、残念ながら体に凹凸が少ない。

 顔も童顔ではないと思うが、格好によっては10代学生にも、主婦にもみられたことがある。

 20歳を越えた芸能人が学生役をやることなんかざらな世の中だ。特に異文化圏では年齢なんか外見だけではそうわからないという持論だったのだが、あながち間違っていなそうである。実際いくつにみられているのか、おおいに気になるところだが。

 

 

 二人で朝食を食べる。口数がそう多くないジーフリートだから、会話はそこまで弾まない。

 話さなくて良い雰囲気に安堵しながらも、ジーフリートはこの空気をいやに思っていないか、自分の存在を鬱陶しがっていないかという不安が過り、それを打ち消すように、何もないのにニコニコと笑顔を浮かべ、『おいしい、おいしい』と一人事を時折挟む。

 ジーフリートはそんな葉菜を、微笑ましいものを見るような目で見ていて、その事実が葉菜を安心させる。

 

(私は、ここにいても大丈夫)

 

 

 ジーフリートがこうやって、優しく笑ってくれるうちはまだ。

 

 

 

 

 朝食後の片付けは、ジーフリートがやってくれることになった。葉菜が面倒がって片付けを後回しにした大鍋もだ。

 

『水釜の水も少ないし、ハナがあの鍋を川まで持っていくのは重いだろう?それに私の方が綺麗に脂を落とす方法を知っているから』

 

(――なんというイケメン…!!)

 

 やはり後妻さんにして欲しい。若さしか取り柄がない嫁は駄目だろうか。それなりに健康であるから、良い子どもは産めると思う。

 

 

 自分は子ども(ということになっているの)だから、素直に甘えることにする。

 代わりの頼まれごととして、ぶつ切りにした野菜と果物を皿にのせてジーフリートの部屋まで運ぶ。

 

 

『ふぃー、ごはん、持ってきたよー』

 

 

 扉を開くと、ベッドとテーブル、本棚だけの簡素な部屋の中、専用にもうけられた止まり木の上で寛ぐ深紅の鳥が見えた。

 形態は雉に似ている。だけど、頭の上から足の近くまで、その羽毛はすべて真っ赤だ。

 真っ赤といってもすべて単色というわけではない。様々な赤色が、一定の法則で織り込まれた布のように、その羽毛は複雑で繊細な色をしていて幾何学的な模様が光りの加減で透けてみえる。

 何度みても美しい鳥だ。

 

 

 ほぅ、と思わず見とれてしまった葉菜をちらりと鳥は一瞥すると、さっさと餌を置いて出てけとでもいうように、ソッポを向いて片足を蹴る仕草をする。

 ひくりと頬がひきつるのが分かった。

 

 

「…っの牛フィレ肉レアめ」

 

 

 思わず日本語で毒づいた。

 鳥の正式名は「フィレア」といい、その名前はこちらの言葉の意味では「いやだ、ジーフリートさん。こんな名前の付け方するなんて可愛い」と思わず胸きゅんするくらい分かりやすい名前なのだが、葉菜が正式名を呼ぶことはない。

 

 一度鳥に「フィレア」と呼び掛けたら、容赦なく嘴で頭をつつかれたからだ。

 

 

 どうやらこの鳥は、葉菜をどうしようもなく嫌いらしい。

 葉菜しかいない場所では、けして鳴き声1つあげようとしないし、葉菜がいる前では、例え葉菜か手からさしだしたものではなく、皿にのせて置いただけの餌でも、けして食べようとはしない。傍に寄るなんてもっての他だ。半径1m範囲に近づくと威嚇をしてくるし、半径30㎝範囲に入ると嘴で攻撃をしてくる。

 

 

 その癖ジーフリートには従順で、美しい歌声でさえずったり、すりよって甘えるのだから憎たらしい。

 

 

(私だって、お前なんか嫌いだよ)

 

 

 葉菜は葉菜を視界に映そうとしないフィレアを忌々しげに睨み付けた。

 

 

 葉菜はいつも葉菜を見下したように冷たい視線をやってくる、この賢く美しい鳥が大嫌いだった。

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