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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第一章

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社会不適合女と居候生活2

 灰色の髭に覆われて、表情が読み取りづらい顔を確かに柔らかく緩ませる60代くらいの男性。

 

『あぁ、ありがとう。ハナ』

 

(あぁ、今日もナイスミドル…いや、ナイスシニアです。ジーフリートさん)

 

 

 一見某空中ブランコの少女のおじいさんにしか見えないが、見え隠れする顔立ちは西洋人のように堀が深く端整である。若い頃はさぞかしハンサムだったろう。

 狩りや自家農園の手入れもしているため、年齢のわりに体も筋肉質でしまっている。実に格好良い。

 

『じぃ、今日、目玉焼き。じぃ、好きな、コルトカ』

 

『あぁ、コルトカの卵の目玉焼きか。ありがとう。わざわざ森まで取りに行ってくれたんだな』

 

 内心躊躇いながら、見かけは何も考えていないかのように、手を伸ばしてジーフリートの腕を引いても、ジーフリートは拒絶しない。

 自然浮かんだ安堵の笑みを、より深い、美醜を気にしない子どものそれに真似する。

 

 

『じぃ、後に教えて。本、わからないあった』

 

 180は優にある長身のジーフリートを見上げる。甘えるように、無垢にみえるように。

 

『勿論。ハナは勉強熱心なよいこだな』

 

 皺だらけの硬い手が、葉菜の頭を撫でた。

 葉菜はくすぐったそうに目を細めながら、罪悪感に胸が痛むのを感じていた。

 

 

 

 森で隠者のように、人と関わりを絶って自給自足の生活を営んでいたジーフリートに拾われて4ヶ月が経つ。

 ジーフリートは言葉も満足に話せず、得体のしれない葉菜を、理由も聞かずに拾ってくれた。

 けして楽な暮らしではないだろうに、子どもの手伝い程度の労働力にしかならない葉菜を家に住ませてくれ、空いている時間には言葉を教えてくれた。

 

 

 

 葉菜にとってジーフリートは感謝しても仕切れない大恩人である。

 

 

 心底、敬愛もしている。

 

 

 だが、全面的に信用出来るかといったら、また別問題で。

 

 

 東洋の神秘か、はたまたこれも異世界補正の賜物か。

 ジーフリートが自分を、24という年齢よりずっと若く、子どものように思っていると気付いた時、葉菜はその勘違いに乗っかることにした。

 

 

 

 無知で無垢で、無邪気で、庇護欲をそそる対象

 

 

 色々抜けている葉菜だが、いや、だからこそ、子どもを演じるのは簡単だった。

 

 

 24歳という年齢がばれて、一人前の大人だからと、放り出されるのが怖かった。

 また、当初の考えのように、女故に体を武器にしないと生きていけないのも嫌だった。

 

 

 命を救ってくれた、大恩あるジーフリートだ。

 万が一売り飛ばされても、恨みはしない。

 

 

 いや、奴隷とか、人肉屋(古代中国に実在したらしいから、この世界にないとは限らない)とか、生け贄とかなら、多分心の底から恨むが、どっかの醜い金持ちの側室に身請けとか、ある程度管理された売春宿くらいなら、まあ許容範囲だ。実の娘でさえ、よくある話。仕方ないとあきらめられる。

 

 勿論、ジーフリートさんの後妻(前妻がいたかは知らないが)にされても、かまわない。寧ろ大歓迎だ。年は離れているが、ナイスシニアなイケメンで生活力がある、優しい旦那様。今の葉菜にとって…いやもしかしたら元の世界でも…好物件過ぎる。

 

 

 だが、積極的に処女を売り出したいか、といったら勿論、そんなわけでなく。

 10歳誤魔化せたとしても14歳だから、逆にそういった色事にちょうど良い年齢になるかもしれないと思いながらも、精神年齢の低さに考慮してくれるだろう、と期待することにする。

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