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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
序章

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漆黒の皇太子2

「オマケ」は「招かれざる客人」、もしくは「盾」とも呼ばれる。

 

 神子が召喚される時に、ともに現れ、異界から移動するときに本来神子が吸収してしまうはずだった、「穢れ」を代わりに負う存在。

 

 役目を終えた「穢れた盾」に対するプラゴド王国の扱いは冷たい。その立場は罪人と同じだ。

 だが、歴代の神子の多くは、同じ世界からきた唯一の存在である「招からざる客人」を手放したがらず、針の莚のような王国で、神子のみにすがって、幽閉されて過ごすのが通例だという。

 神殿にはそのための「穢れの間」が設けられているという話だ。

 

 

 プラゴド王国には忌避される「穢れ」。

 だがプラゴドのいう「穢れ」は、男にとっては、否、男の王国にとっては万金よりも価値があるものだった。

 

 

 プラゴド王国に神子と共に召喚されていれば話は簡単だった。

 神殿はいくら神子の望みだからと我慢してはいても、本当は穢れた存在の滞在を苦々しく思っている。

 少し餌をぶら下げれば、喜んで飛び付いたはずだ。

 プラゴド王国は他国民すべてを見下していて、外交には消極的であるため、厄介払いさえ出来れば、莫大な対価を請求することなぞ考えはしないだろう。

 

 

 冷遇された立場から救い上げたという意識を刷り込ませてやれば、「招かれざる客人」を意のままに動かすのも難しくなかった。

 

 

 

 

 ほしいのは「招かれざる客人」の性質を持った器。

 その能力さえあれば、人格や見かけなどはどうでもよい。寧ろなまじ賢いより愚かな方が良い。

 

 どうせ、傀儡にするに過ぎないのだから。

 

 

 

「プラゴド王国に来なかったということは…弾け跳ばされたか」

 

 

 神子がほとんど穢れに侵されていないという報告を見る限り、早い段階で「盾」がなくなったとは考えづらい。

 

 恐らくは、この大陸のどこかに今も存在しているはずだ。

 

 

 男は急いで各地の密偵に向けて、「招からざる客人」捜索の旨を書いた手紙を手配する。

 

 

「一年―いや、教育期間を考えると、半年か」

 

 

 

 男は宙を睨み付けながら、残された期間の短さに舌打ちをした。

 

 

 ――必ず、手にいれてみせる。

 

 

 すべては、彼の野望のために。

 

 

 

 グレアマギ帝国の皇太子であり、王位第一継承者である男は、文を早急に届けさせるべく、小部屋の仕掛けを動かした。


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