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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
終章

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番外編【葉菜の出産】3

「フィレア、何を…」


「ジーフリートだっ…こいつはジーフリートだ…盟約によって繋がれた俺には分かるっ…」


 フィレアはそう言って、額を赤子のそれに軽く触れ合わせた。

 まるで、祈るかのように。


「ジーフリートが、また、俺に会いに来てくれた…っ!!」



 感極まったように呟くと、フィレア涙に濡れた長い睫毛を伏せた。



「……会いたかった。会いたくて会いたくて仕方なくて、気が狂いそうで、許されるならばお前の後を追って死んじまいたかった…だけど、また、俺に会いに来てくれたんだな。だけどまた、傍にいれるんだな…また、お前と、時を重ねられるんだな…ジーフリート…」



 フィレアがすすり泣きながら赤子に語る言葉は、葉菜が初めてきくフィレアの悲痛の声だった。

 葉菜が知らないフィレアの姿だった。

 フィレアは、ずっとそんな想いを抱えながら生きてきたのだと思うと、胸が締め付けれる。



 だけど、その一方で葉菜は疑ってしまう。



(……輪廻転生なんか、本当にあるのだろうか)



 フィレアは、葉菜とザクスの子どもが、ジーフリートの生まれ変わりだと確信している。だけど、葉菜はそれが事実だと、簡単には信じられない。


『輪廻転生は、死を怖れる人間の都合が良い思い込み』


 そんな考えが、葉菜の中には変わらず存在している。

 それは、魔法や魂の盟約のような、元の世界では考えられない超常現象をあまた体験した今でさえ、変わらない。


 死んでもまた生まれ変われる…しかも人間になんて、あまりに出来すぎではないだろうか。

 生まれ変われるにしろ、今回みたいに、前世の自分と近しい人の傍に生まれるなんて、都合が良すぎる。


 単にフィレアは、ジーフリートの陰を赤子に見出だしただけで(ジーフリートとザクスは血縁関係にあるから、似ててもおかしくない)、魂の盟約によって分かる云々というのは、ジーフリートの死を受け入れたくないフィレアの思い込みなのではないか。



(――だけどもし、それが本当なら)



 輪廻転生が本当にあって、転生してもまた、盟約によって魂が繋がっているのなら。



(それならば、死んだ後も、また…)



「――必ずまた、見つけてやる」


 未だ重なったままだった手を、強く握られながら告げられた言葉に、どきんと心臓が跳ねた。

 ザクスの真剣な眼差しが、真っ直ぐに葉菜を射抜く。


「どこの世界に生まれようと、どんな姿に生まれようと、俺が必ずお前を見つけてやる。お前は魂の盟約で結ばれた、俺の唯一の従獣なのだから」


 思わず、口元が緩んだ。


「…別の世界にいても?」


「その時は、今度は俺がお前の世界に行ってやる」


「今度は獣の姿になれなくても?」


「どんな姿だろうが関係ない。今だってお前は人間の姿だが、俺の従獣だ」



 真剣に言い募るザクスが、おかしくて笑ってしまった。

 笑っているのに、涙が滲んできた。


 幸せだから、涙が出た。



 葉菜は、輪廻転生を完全に信じることは出来ない。


 死後の世界のことなんか、死んだことが無いものには誰も分からないのだから。



 でもだからこそ、夢を見てもいい気がした。


 愛しい人と、来世でもまた巡り合える。



 そんな優しい未来を、いつか訪れる別れの後を、思い描いてもいいと思った。






 再び二人の間に流れる、どこか甘い空気。

 だがそれは再びフィレアの言葉によって、壊された。


「…よし、ジーフリート!!てめぇは俺が、立派に育ててやるからな」


(…は?)


 聞き捨てない言葉に、葉菜はザクスから手を離し、立ち上がる。


「ちょっと、フィレア!!母親、私!!育てるの、私!!」


 挙手しながらの葉菜の主張を、フィレアは鼻で笑う。


「てめぇみてぇなアホに、ジーフリートを任せられるかよ。こいつは俺が責任もって、面倒を見る」


 葉菜のこめかみに筋が浮いた。


「フィレア、てめぇ、糞鳥!!母親から子供奪うっちゃー、どういう了見しとるんじゃぁっ!!鬼畜鳥がぁ!!」


「ハッ、どうせ何かある度いちいち狼狽えて、まともな育児できねぇでいるのは目に見えてるだろうーが。逆に俺に感謝しろ、アホ女!!」


「その子は私がしっかりと育てあげて、ママラブな子にして、いちゃらぶな日々を過ごすんだぁぁ!!」


「てめぇ、ジーフリートに対して何考えてんだ!!ゴラァ!!」



 二人の喧嘩は、フィレアの腕の中の赤子が声に驚いて目を覚まし、大泣きするまで続いた。

(慌てて駆け付けたリテマによって赤子は無事再び眠りにつき、フィレアと葉菜は一時間ほど正座でお説教を受ける羽目になる。普段は優しい人ほど、怒ると怖い)





 ジークという仮名をつけられた赤子は、葉菜の懸念に反して、すくすくと賢明で優しい少年に育っていく。

 その背景には、完全に小姑化したフィレアによる教育があったことは否定できない。

 密かに夢見ていた「大きくなったらお母さんと結婚する!!」という言葉を、フィレアに奪われた時、葉菜は一晩いじけた。

 いじける面倒くさい妻を適当にあしらって慰めながらも、顔にも言葉にもけして出さないが、内心息子に妻を取られずに済んで安堵するツンデレの姿があったことは、ここだけの話である。


【番外編:葉菜の出産 完】

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