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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
終章

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檻の中の獣2

「な、何を……」


 レアルが目に見えて狼狽えだした。

 レアルは直情型と言うか、なんと言うか、演技が出来ない人(というか鳥であることが今確定した)だと、葉菜は改めて思う。

 自分から、ネトリウスの言っていることが正しいと態度で示している。


「貴方は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私は一度貴方にお会いしたことがあるのですよ。ジーフリート卿に連れられた貴方は気高く美しく…そして、初めて感じる独特の魔力を纏っておりました」


 そう言ってネトリウスは、離れた場所にいるレアルから漂う香りを嗅ぐように、すんと、鼻を鳴らした。


「私は貴方の種族のように、魔力を目で見ることが出来る能力は備わっておりません。その代わり、私はその他の器官による魔力感知―特に嗅覚による魔力感知は並ぶものがないと自負しております」


 ネトリウスは香りを堪能するかのように大きく息を吸い込むと、うっとりと顔を綻ばす。


「貴方の魔力の香りは、森の香りだ。生命力に溢れる木々、青々しく照る葉、流れる清涼な川、咲き誇る無数の花々、植物が根を張る豊満な大地、全てを統合して不純物を取り除き、純化させたような、そんな清々しい香りだ。一度嗅いだら忘れられません。」


(なぜ神は魔力フェチの変態に、そんな面倒な能力を与えたもうたのだ)


 変態だからこそ、そんな優れた探知魔力を習得したと思うべきか。そんな優れた魔力探知能力を持っているからこそ、こんな変態になってしまったのか。

 鶏が先か、卵が先か。大いに気になるところである。

 しかし、変態ネトリウスについて深く知りたいわけではないし、敢えて口にはしないが。

 思わず遠い目をしてしまった葉菜だったが、続けられたネトリウスの言葉に現実に引き戻された。


「――だからこそ、貴方様の正体も分かってますよ。魔獣様、いえ、『招かれざる客人様』」


 全身に冷水を浴びせられたような衝撃だった。頭の中が真っ白になる。


「え…」


 口から洩れた声は掠れていて、ひゅっと喉の奥がなったのが分かった。


「こないだ貴方様の魔力の香りを堪能させて頂いた時に、すぐ気づきました。貴方様の香りは頭部から発せられていて、魔力袋があるべき位置からの香りは薄かった。そして、魔力のコントロールも失礼ながら余り上手ではいらっしゃらない。」


 流れるように紡がれる言葉。

 ネトリウスが葉菜に向けた目は確信に満ちていた。


「そしてなにより、その魔力量。魔獣の生態は殆ど知られておりませんが、私は縁があって一度他国で祀られている魔獣と対峙したことがあります。神格化されている存在ならば、さぞ強大な魔力量を持っているだろうと期待してみれば、グレアマギの高位魔力者程度の魔力しか有していなかった…正直、興ざめでした。しかし、その国の人間は枯渇人程度の魔力しか有していないのが一般的故に、あの程度の魔力でも十分敬うべき存在に思えるのでしょうね」


 否定しようと口を開きかけたが、ネトリウスは葉菜に口を挟む隙を与えない。


「しかしグレアマギでは違う。グレアマギは魔力所有者の中でも、強い魔力を持つもの達が集まって興された国です。いわば魔力のサラブレットの集まりといっても良い。その中でも、私は特別魔力が高い人間を日常的に見て過ごしました。誰よりも魔力に対する目は肥えているのです。そんな私が、貴方様を一目見た瞬間、呼吸を忘れました。対峙している存在が現実のものだと信じられなかったのです。――それほどまでに貴方様の待つ魔力は強大だ。この世界では並ぶものがいないと確信できるほどに」


 王城で初めて葉菜と対峙した時を思い返すようにネトリウスは眼を細めて上空を見つめると、恍惚に満ちた溜息をついた。


「何故貴方様が獣の姿をしているかまでは存じません。恐らく魔力の暴走ゆえの結果だろうとは察しておりますが、推測の域をでません。恐らく尋ねたところで教えてはくださらないでしょう。――だけど、貴方様が『招かれざる客人様』であることは間違いない。それだけは断言できます」


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