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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
序章

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社会不適合女とサバイバル4

 葉菜が懸念していたよりも、サバイバル生活は順調に進んだ。

 

 疲労からすっかり熟睡してしまった葉菜が目を醒ますと、焚き火が消えていて半狂乱になったが、また木の枝を擦ってみるとマッチでも擦るように簡単に火がついた。明らかに異常な現象であるが、都合が良いので深く考えないようにした。きっとこれが異世界補正という奴だ。

 

 異世界補正は、火だけではなかった。

 動物性タンパク質をとらなければ、と次の日葉菜は先が尖った木の枝を片手に恐る恐る川辺に向かった 。

 先が尖ったといっても、ナイフで尖らせたわけでもないただの木の枝だ。おまけに葉菜は運動神経が良い方ではない。ほとんどダメもとである。

 なのに、面白いくらい簡単に魚がとれた。魚が自分から刺されにいってるのでは?と疑うくらいに。

 五匹捕まえたところで、やめにした。

 

 川辺に生えていたバナナの葉のような葉で包んで洞穴に持って帰って、木の枝にさして焼いて食べた。

 塩味はつけられないが、美味しかった。アボガドもどきも生で食べるより、焼いた方が甘みがでて美味しい。

 

 

 他にもいくつか食べられそうな木の実や草を見つけて、食料を充実させた。

 なぜか腹を壊す気配もない。これも異世界補正の賜物だろうか。

 

 

 ビバ・異世界補正

 

 

 神様はなにも出来ない葉菜に異世界でサバイバルをして生き残る能力を授けてくれたらしい。非常にありがたい話だ。

 そんなものより、まず人間に遭遇させろや、ゴラァ、と思わないでもないが、それは贅沢というものだろう。

 

 凶暴な肉食獣と遭遇することもなく、慣れると怯えることなく奇天列な姿の生き物たちの生態を楽しめるようになった。

 

 夜になると焚き火のそばで寝転がり、洞穴の入り口から見える星を見上げた。

 日本よりたくさん見える星。星座がよく分からない葉菜には、それが地球からみたのと違う星なのか分からない。

 ただ、瞬くそれらを、美しいと思った。

 

 

(案外サバイバルも悪くないのかもしれない)

 

 

 異世界らしく、2つある大小の月を眺めながら、そんなことを思った。

 

 

 順調なサバイバル生活。

 だが、落とし穴は意外なところにあった。

 

 

「――――っ」

 

 いつものように、川辺で水を飲んでいると、不意に目眩に襲われ葉菜は倒れこんだ。

 口のなかで乾き、体が上手く動かない。視界が黄色に染まってみえる。

 上手く息が出来ない。

 

 

(――なんで?)

 

 

 果物と、植物、動物性タンパク質。それにたくさんの水。

 バランスも気をつけて葉菜は栄養を摂取していた。

 体を壊したら一貫の終わりだと思っていたから体調管理にはかなり気をつけている。食べられる植物が大分わかるようになると、リスクを考えて、新しい植物には挑戦しないようにした。

 昨日食べたものも、すべて食べたことがあるものばかりだ。

 

 睡眠も充分とるようにしている。

 

 体重は多少減少したと思うが、生命の危機に陥るほどではない。

 

 なのに、なぜ?

 

 

(水を飲んで、倒れる……どこかで)

 

 

 脳裏にいつぞや読んだ漫画の内容が過る。

 読者の貧乏体験談を漫画にした投稿型のコンビニコミック。

 

 空腹で水を飲んだら、気絶して救急車に運ばれたというものがあった。

 

 

 水中毒とも言われたその症状。正式名は……

 

 

(低ナトリウム…なんとか)

 

 

 正式名は思い出せないが、確か血液中のナトリウムが水によって薄まって、体をおかしくするとかいう話だ。

 

 

(ナトリウム……塩!?)

 

 

 ここは森だ。海がない場所で塩なんか採れるはずがない。

 葉菜の体は塩分が不足している状態だったのだ。

 特別大量に水を飲んだわけではないが、低ナトリウムなんとかが起こってもおかしくない。

 

 


正式名は低ナトリウム血症。

血液中の塩分濃度が急激に薄まったことで生じます。重症な場合意識障害や呼吸困難に陥ります。

葉菜ちゃんの発想はリアリティを出すため基本下調べなしに作者が思い付いた発想になるため、しばしば抜けがあります。

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