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異界山月記 ‐社会不適合女が異世界トリップして獣になりました‐   作者: 空飛ぶひよこ
第三章

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皇太子の闇3

 名前でしか知らなかった兄の死を知らされるなり、ザクスは王宮に連れてこられた。

 そこでザクスは物心をついてから初めて、血を分けた両親と対峙した。


 父親だと名乗る人物は、無機物を見るかのような目をザクスに向けた。


 母親だと説明された人物は、一言も口を開くことがないまま、汚物をみるかのような目を向けた。



 元より期待なぞ抱いていなかったが、あまりに酷い親子の邂逅だった。



「シェルドが死んだ今、第一位王位継承権はお前に移ることになる。お前が『枯渇人』の無能だろうが、それは変わらない。」


 息子が死んだばかりとは思えないほど淡々とした調子で、父親と名乗ったヒューレイらザクスの状況を説明した。

 ザクスと違って、シェルドは魔力は充分有していたはずなので、その能力とは関係なく、ヒューレイは「子ども」という存在自体に興味がないのだろう。

 ヒューレイの表情に悲壮感は微塵も感じられず、たた面倒な事態に陥った苛立ちが所々で見てとれた。

 泣き腫らして目元を充血させ、今この場でも嗚咽を耐えているラタとは、対照的だった。


「現時点で、他に王位継承権を持つ物はお前以外に2人いる。一人は他大陸のクタルマヤ共和国から友好の証しに贈られたアルデシア姫から生まれたアルバ。お前の腹違いの兄だ。もう一人が、お前のはとこにあたるネトリウス。二人とも枯渇人のお前なんぞじゃ比べものにならない魔力を持っているが、背景が面倒くさい」


 ヒューレイは男らしい端正な顔立ちを歪ませながら、自身の顎鬚を撫でた。


「アルバに王位継承をさせた場合、まず間違いなくクタルマヤがグレアマギに干渉してくるな。気候や土地の性質に恵まれていないクタルマヤは、一年を通じて温暖な気候で、また土も肥沃なファルス大陸を羨んでいる。アルバが王になった途端、それを理由にグレアマギに干渉し、ひいてはファルス大陸の侵略の足掛かりにして来ようとするだろう。ネトリウスは、母親の一族がプラゴドに毒され、数代にわたりシュフリスカを信仰しているという情報が入ってきている。もしその影響でネトリウスがシュフリスカ信仰を国教化しようとすれば、ファルス大陸における三国不干渉のバランスが崩れ、大陸中が戦火に包まれることとなるだろう」


 ヒューレイはそういって、真っ直ぐにザクスを見据えた。


「争いの種になる有能な奴と、無害な無能なら、俺は無害な無能をとる。周りが有能でさえあれば、王なんてお飾りでも十分こなせるからな。だからこそ、俺はお前が第一位王位継承権を持つことを認めた。かといってお前に期待なぞ最初からしていない。お前が本当に王になるとも思っていない。せいぜい暗殺を避けて、少しでも長く俺とラタ…もしくは他の面倒がない寵姫たちの間に王たる資質を持つ子供が生まれるまで間をもたせることだ」




 王宮での生活が始まり、ザクスはようやく『枯渇人』がどういった立場の人間なのかを身を持って知った。


 常に付き纏う、蔑みの視線と、嘲笑。


 同じ『枯渇人』の使用人に囲まれて育った7歳のザクスにとって、それはとても苦しいものだった。

 ウイフや、リテマは屋敷から王宮に着いて来てくれたが、彼らもまた差別を受ける立場であり、王宮内での立場はけして良いものではなかった。

 他の使用人から軽んじられている状況を幾度も見たことがある。


(俺たちが何をしたというんだ)


 幼いザクスはその理不尽な状況に歯噛みをした。

 先天的に魔力が少ない『枯渇人』

 だけど魔力に頼らずとも、普段の日常生活には特別支障がない。

 魔力は枯渇すれば生命に関わるライフラインでもある為、よほど魔力が有り余った人間ではない限り、日常的に魔力を行使している人間は少ない。

 魔力が一番必要とされるのは戦いの時だ。それ以外の場面では、魔力もちも枯渇人もそう変わらない生活を送っている。

 それなのに何故、魔力がないというだけで、差別されなければならない。

 見下され、常人未満の扱いを受けなければならない。


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