サミュエル兄さん
短くなりました。二人の愚痴話です。
ああ、私はね、生まれた時からバルトコル伯爵家へ戻ることが決まっていた。
それでも侯爵家の三男だからね、色々と柵があって、鬱陶しかったよ。
そもそもの話、生まれてすぐに私を養子としてバルトコル伯爵家へ戻せば良かったと思わないかい。
もしそうなっていたら、キャサリン叔母上を姉上と呼んでいただろうね。マークは私の甥になっていた。年齢的にはその方が自然だし。
なのに、どうでも良い理由を付けて、ズルズルとテムニー侯爵家に引き留められた。
おかげで私は宙ぶらりん。この年で独身って、酷くないかい。
バルトコル伯爵家に戻ってからでないと、婚約者を決めることもできないんだよ。貴族の縁談は家と家との契約だからね。
なぜ引き留められたか、か。
侯爵家以上の高位貴族はどこも後継者不足に悩んでいる。上に兄が二人いた私は、他家から養子候補として狙われていたんだ。
実際、上の兄は公爵家に取られてしまったしね。
はは、将来伯爵になる私は、侯爵家の秘事に関わる教育を受けるわけには行かなかった。伯爵家に籍を移すまではそちらの内情に踏み込むわけにもいかない。
宙ぶらりんなりに出来る事を考えて、軍人の道を選んだよ。家を継ぐためという理由で、いつでも円満退役できることだし。
すぐ上の兄も私と同じ理由で騎士団に所属した。本人は近衛騎士志望だったけどね。
どういう訳だか、近衛騎士になって王族に侍るのが高位貴族の誉っていう風潮なんだよ。
一生独身の近衛騎士より、婿入りして他家の当主になる方が将来有望だと思うんだけど。
でも。
近衛騎士になっていたら、騎士団で戦死しなくてすんだはずで。
兄上はさぞかし不本意だったと思うよ。
僕の身の上はかなり複雑だけど、サミュエル兄さんの身の上話もどっこいだったよ。
愚痴の言い合いになって、意気投合しちゃった。
歳の離れた友人って、こんな感じなのかな。
「侯爵になるための教育を二年前から受けてるけどね。正直、まだまだかかりそうだよ」
「二年前って、僕ん家にバルトコル伯爵家の後継の話が持ち込まれた時だね」
「そう。とんでもない玉突き事故だ。それもこれも高位貴族の少子化が諸悪の根源。マークだって、公爵家の後継教育が待ってるから、覚悟がいるぞ」
サミュエル兄さんがげんなりした顔で言った。僕も似たような顔をしてるんだろうな。
「あのさ、やっぱり僕、公爵家に行かなきゃダメかな」
「駄目だろうね」
即答されて、ため息が出た。
「私よりマークの方が条件は良いと思うよ。なにしろ若い。順応性があるだろう」
「とんでもない。サミュエル兄さんは伯爵から侯爵でしょ。僕は子爵から公爵だよ。落差が酷いよ」
「なんの、まだまだ。ミリア嬢は男爵令嬢から聖女様だよ。それに比べれば」
あー。義妹のミリアはね。
聖女様って国王陛下より立場は上になるから。改めて考えると、とんでもない。
「聖女様の後ろ盾になるためには、それなりの権力は必要だよ。そのためにデアモント公爵位を利用するくらいの気概を持つんだね。でなきゃ、やってられないぞ」
そうだね。ミリアやカークのためにも、腹をくくらなきゃね。
はぁ。
歳は違えど、似たような境遇。サミュエル兄さんへの親近感が爆揚がりしました。
同病相憐れむの心境です。
溜息をついてるばかりでは前に進めません。頑張れマーク君。
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