お迎え
冬季オリンピック開幕したら、寒気団がやってきました。
今日は衆院選の投票日。ちょっと外出をためらう吹雪ですけど、行ってきます。
開拓当初、だだっ広い荒野で贅沢に使えるのは敷地だけだった。
最初の掘立小屋は、使われなくなるとすぐに解体されて薪になった。
ぽつぽつと建てられた質素な家は、食い扶持の足しにするための貧相な畑に囲まれていた、
人が増え、畑が広がって立派な村になっても、まだまだ土地は余っている。
開拓村の道はむき出しの土のままで、整備もろくにされていなかったけれど、広さだけはあった。
「ほんとに、広くて良かったよ。でなきゃ、アレが通れなかったぜ」
「ああ、アレが村に入れて良かったな。ところでプリオ、アレ、何だ」
開拓村のリクスト村長は、目の前に迫って来る金属の塊へ、胡乱な目を向けていた。
大型の幌馬車ほどの大きさで、箱馬車のように壁と天井が作られている。大きな車輪が無ければ、四角く作られた小屋にも見える。
ガラスのはめられた窓が幾つか、カーテンが閉められていて中を覗けない。
側面のドアの横にはでかでかと紋章が掲げられていて、いかにも貴族様の乗り物でございと主張していた。
「どう見てもカース公爵家の紋章だ」
「さすが村長、貴族様の紋章、見ただけで分かるんだな」
「まあな、隣の領主様だからな。プリオも覚えとけよ。書類とかに付いて来るから」
「だよなー」
現実逃避気味にしゃべる二人だったが、馬車らしきそれに馬が繋がれていないことには言及しなかった。
あまりに非現実的すぎて、言及できなかったと言うのが正しいか。
聖女様の御神託によりもたらされたそれは、馬無し馬車と呼ばれている。
馬車とは比べ物にならないスピードと走行安定性を備えたそれは、王都とランドール伯爵領、そして主要街道沿いではよく見かけられるようになっていた。
それ以外の地域でも噂になってはいたが、半信半疑、馬を使わずに走るなんて荒唐無稽な与太話だ。
開拓村は情報弱者だ。そんな噂さえ辺境には届かない。
事前情報なしで神代の遺物と対面した二人は、取り乱さなかっただけ立派だった。
馬無し馬車の中でも居住空間を充実させた大型のそれは、聖女様からキャンピングカーモドキと命名されている。
今のところ、王家と侯爵以上の貴族しか所持していない。
カース公爵家でさえ一台しかないそれをわざわざ派遣されたことがいかに特別だったか、二人が知ったのはかなり後になってからである。
使者に渡された公文書には、特別な紙が使われていた。光にかざせば、公爵家の紋章の透かしが浮き上がる。
それはマーク・ランドール伯爵令息がエザール・デイネルス侯爵から受け取った召喚状と同格の、高級品だった。
やけに形式ばって迂遠な言い回しが多用された書状を、ウンウン唸りながら読み解いていたリクスト村長に、年配の使者が穏やかに声を掛けた。
「準男爵リクスト殿には、カース公爵邸へ足をお運びいただきたい。正式に男爵位に叙爵し、領地と家名を得られた暁には、是非ともカース公爵家の寄り子になっていただきたいと希望する。主の言葉にございます」
やけに腰の低い言い回しだったが、公爵家の申し出を突っぱねられるわけがない。
「従者と侍女の人数は、五人までとさせていただきたく存じます。あいにく定員に限りがございまして」
開拓村の人材では、従僕も侍女も無理だ。公爵家に出向くと言う時点でただの村人なら尻込みする。
貴族出身だって居るには居るが、全員脛に傷持つ訳ありだ。でなければ、開拓村くんだりまでやって来ない。
「このキャンピングカーモドキは大変高速でございます。他の馬車や騎馬では同行叶いません。後から追いかけて下さるなら公爵家の通行許可証を発行いたしますが、如何ほど必要でしょうか」
公爵家の通行証は魅力的だが、荷馬車しかなければどうしようもない。
あらゆる門がフリーパスになったところで、そこまで遠出する手段がなければ宝の持ち腐れだ。
「使者殿。ご厚意ありがたく。しかしながら此度は、村長である私リクストと村長補佐プリオの二人でお伺いしたいと存じます。どうか良しなに」
「畏まりました。それでは出立いたしましよう。どうぞ、ご乗車ください」
「はい? 今からですか」
いくら何でも急すぎる。
「身一つで来ていただければよろしいですよ。必要な物は全て用意させていただきます。ここには連絡員を残させていただきますし、何か指示があれば速やかに伝達いたします。手配に万全を期しましょう。心配ご無用に願います」
にっこり笑った使者の圧に、これが慇懃無礼かと実感する村長だった。
長っ。
村を出発するだけでどんだけ文字数が要るのか。カース公爵と面談するシーンまで辿り着けませんでした。
テンポの良さが売りのお冨ですが、薀蓄好きが足を引っ張ります。いつものことだけどね(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




