トンボ返り
マーク君とオスカー君、二人の続きです。
オスカー義父さんとはまだまだ話し足りない。でも、学園の再開期日が迫ってる。忘れない内にここまで足を運んだ目的を果たしておかないと。
座ったまま背筋を伸ばして、気持ちを仕切り直した。
「前置きが長くなっちゃったけど、今日は伝言のために来ました。キャサリン母上の返事です」
「え、返事って何の」
「デアモント公爵からのプロポーズの返事です!」
大事な話なんだから、しっかり聞いてくださいよ、オスカー義父さん。
先日、王都のランドール伯爵邸を訪れたデアモント公爵は、キャサリン母上に大事な話をしたいと申し出た。
血縁の無い男女を二人きりにするのは貴族としてアウト。下位貴族や中位貴族なら、なあなあですむ話でも、高位貴族の場合決して許されないんだ。
平民の使用人を同席させる場合、三人以上控えさせなきゃいけない。主に命じられて口裏合わせをするのを防ぐため、複数の証言を突き合わせるとか何とか。
貴族籍の使用人なら、身分による信用があると見なされるから一人で良い。
そんな面倒くさいルールに反して使用人を人払いするなら、血縁者の同席が必須。
僕に関係する話だから残って欲しいと言われた時は、まさか母上の再婚話になるとは思ってもいなかった。
デアモント公爵のプロポーズは、オスカー義父さんと離縁することが大前提になる。キャサリン母上が厳しい表情をしたのは無理ないよな。
家督を持つ女当主なら第二夫を娶ることだって許されるけど。そうじゃないし。
『ランドール家の事情は全て承知しておる。その上で、私は貴女に恋をした。一人の女性として愛しく思っておるのよ。どうか、私とこれからの生涯を共にしてはいただけぬだろうか。ああ、この場では返事をしないでいただきたい。すぐに断られては堪えられぬ。時間をかけて考えていただきたいのだ』
目の前で母親が口説かれるのを見るって、どんな顔すれば良いのか分からなかったよ。
「キャサリン母上は、返事を保留しました。デアモント公爵閣下の申し出がありましたし、僕の卒業を期限に結論を出すことになりました。その間、公爵閣下は遠慮なく口説くと宣言なさいました」
「ああ、その、公爵閣下らしいな。あの方は、その、押しが強くてだな」
モゴモゴと口ごもるオスカー義父さんにイラっとしてしまう。
「あのな、マーク。俺はキャサリン義姉さんの選択を尊重するよ。嫌だとか迷惑だと思ってるなら、遠慮なく言って欲しいんだ。もちろん、再婚するなら、喜んで送りだす準備は出来てる。幸せになれるならそれが一番だから」
そうだね。母上の幸せが一番だね。分かっているけど、なんだかモヤモヤするんだ。
「マークは反対して良いんだよ。親は子供に結婚しないでくれって言えないけど、子供は親に再婚しないでって言って良いんだ。自分の幸せより子供を優先できるのが親ってものだからさ」
それは、どうなんだろ。
僕は庇護が必要な幼子じゃない。一方的に愛してくれって言うのは、甘えじゃないのかな。
キャサリン母上は一人の女性だ。幸せになって良いんだ。
自分で自分に言い聞かせながら、僕は王都へ帰還した。授業再開の前日のことだった。
マーク君、悩んでます。彼も年頃ですからね。
デアモント公爵の口説き文句を書き連ねたら、なんだか冗長になりまして。バッサリ削ったら今度は短くなりました。
話のテンポは落としたくないし、バランスが難しいです。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




