デアモント公爵の本気
ライナーと一緒に辻馬車で帰宅したら、デアモント公爵閣下のキャンピングカーモドキと鉢合わせした。
馬無し馬車、それも公爵家の紋章付きで超大型のそれを辻馬車の馭者さんは興味津々で見てた。
「いやー、いいもん見やした。すっげぇすねぇ。一度でいいから動かしてみたいっすよ」
うーん、馬無しだから馭者さんには動かせないかな。
「ありがとうございやした。またのご利用を」
チップをはずんだら、馭者さんがますます笑顔になった。
伯爵家になると貴族の見栄ってものがあって、心付けが必須なんだって。この金銭感覚、今まだに慣れないよ。
子爵家継いだら、高位貴族のしきたりとオサラバできるはずだったんだけどな。
玄関入ったら、家令のリカルド・オーエンさんがデアモント公爵の相手をしているところだった。
すぐに目があって、一礼してくる。
「お帰りなさいませ、若様」
閣下も気付いて、僕らの方に振り向いた。
「おお、マーク卿、久方ぶり、というほど間は開いておらぬな」
ほんとにね。いくらキャンピングカーモドキがあるからって、早すぎでしょう。
ランドール伯爵領の領都へ往復する分だけ、僕らより長距離移動したはずですよね。なのに、同じ日に王都へ帰って来てるって、どれだけ強行軍したんですか。
どう考えたって、夜通し走らなきゃ無理ですよね。
「オスカー卿に許可をいただけたのでな。その足で帰路についたのよ。居ても立ってもおられぬとはこのことよな。気が逸ってしかたないわい」
デアモント公爵、なんかはしゃいでるような。
「浮かれ過ぎです。歳甲斐の無い」
ぴしゃりとオーエンさんが窘めた。さすが元国王陛下の侍従長、相手が公爵だって遠慮無しだ。
「先触れを出す余裕くらい持ちなさい。本日は聖女様ご不在ゆえ見逃しますが、無礼は許されませぬぞ」
あー、そうか。ミリアが居たら準王族あつかいになるから公爵より格上になるんだ。先触れなしで訪問したら不敬罪案件になっちゃうんだっけ。
高位貴族の礼儀作法はややこしいったらありゃしない。面倒だなぁ。
ちらりと横を見たら、ライナーがやけに静かだった。
さすがに相手が公爵閣下じゃ、ライナーだって緊張するか。キャサリン母上にマナーを叩き込まれたからなぁ。
「立ち話もなんでしょう。リカルド、デアモント公爵をご案内して。ご用件をお聞きします」
ちゃんと呼び捨てしたら、リカルドさんが良く出来ましたって雰囲気になった。
心の中でさん付けするのは止められる気がしないけど、そこは許してほしいな。
今、目の前でデアモント公爵閣下とキャサリン母上が対峙している。ピリピリした緊張感が凄い。
僕が同席しているから、かろうじて男女二人きりにはなってないけど、使用人は全員人払いされている。伯爵邸の応接室なのに、はっきり言って異常事態。
どうしてこうなった。
いよいよデアモント公爵の来訪理由が明らかに。マーク君の将来がガチでかかってます。
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