港町マイヅル
お待たせしました。新章開始です。
来週の週末は地区の秋祭りなので、お休みします。天気、大丈夫かな。
神の恩寵の運河、通称海峡を船で運ばれて、デルスパニア王国ランドール伯爵領の港町マイヅルに到着した。
僕らの他にも大型の幌馬車が大量に載った貨客船は、ミリア曰くカーフェリーと呼ばれるらしい。
以前修学旅行で来た時より建物が増えて、人通りも賑やかになってた。
大小様々な馬車に混じって、チラホラと馬無し馬車も見える。キャンピングカーモドキが道を走ってたって、大騒ぎにならない。
帝国とは大違いだ。やっとデパ国に戻って来たって実感できた。
学園の学生寮は授業が始まる十日前から開くから、さっさと帰ってゆっくり疲れを取りたい。どうせなら休みの間ずっと開けといてくれれば良いのに。
馬車でランドール領を横断すると一週間はかかるけど、キャンピングカーモドキなら一日だ。領を出たなら王都はすぐそこ。
そんなことをぼーっと考えながら窓の外を見てたんだけど。
「あれ、マーク兄様、向こうからキャンピングカーモドキが来るわよ」
義妹のミリアが指差した先には、普通の馬無し馬車とは比べ物にならないほど大きな車体が動いていた。確かにキャンピングカーモドキだ。
「あれはデアモント公爵家の紋章ですね。ご本人でしょう」
近衛騎士のゼルム卿の言葉に間違いは無いだろう。
「なぜ公爵本人だと。デパ国では、当主個人専用の紋章があるのか」
ランハルト君が不思議そうに聞いてきた。
答えたのはもう一人の近衛騎士のキリー卿。
「いえ、紋章で個人を特定はできません。ただ、キャンピングカーモドキは希少でして、公爵家と言えど所持できるのは一台が限度。王都内ならともかく、ここマイヅルまで運用するるなら、当主かあるいはご家族が直接ご使用になられていると考えられます」
「そんなに貴重な乗り物なのか」
ラインハルト君が目を丸くした。素直に感情を出すって、気を許してくれてるんだね。ちょっと嬉しい。
「ん? この乗り物はランドール伯爵家の持ち物ではないのか。どこぞの高位貴族からの借り物なら、そちらにも謝意を伝える必要があるのではないか」
わあ、そんなとこまで気を回すんだ。皇子様って大変なんだな。
「あら、気にしなくて良いわよ。これ、家のだから。うふふ、これでも私、デルスパニア王国の聖女様だからね。準王族あつかいしてもらってると、こういう役得もあるのよ」
ミリアがあっけらかんと言った。
あーあ、ちっとも王族らしくないよ。どちらかというと庶民派だね。ニーナ義母さん譲りかな。
そんな風にしゃべってたら、キャンピングカーモドキがどんどん近付いて来た。そのまますれ違うだろうってタイミングでスピードを落として、ぴたりと止まった。
「マーク卿」
大音声というやつで呼び止められては、無視するわけにも行かない。馭者に指示を出すまでもなくゆっくりと止まった。
「これはこれは、この場でお会いするとは偶然ですな。ちようど良いところに。これからランドール伯爵に面会を求めるつもりでしたが、マーク卿もご一緒いたしませぬか」
公爵閣下ともあろう方が、何で僕に敬語なんですか。ここには聖女様のミリアとトマーニケ帝国の皇太子殿下がいらっしゃるんですよ。僕より優先してくださいよ。
そう思っても、口には出せない。
うう、分かってるよ。僕がデアモント公爵家に養子に行く話、一時的に棚上げしただけで、卒業までに結論を出さなきゃいけないんでしょ。
何でここで見つかっちゃうかなぁ。ちょっと偶然にしちゃ出来すぎじゃないか。
デアモント公爵、まさか権力と財力にモノを言わせてませんよね。
デアモント公爵がランドール伯爵領へ押しかけてオスカー義父に面会する話はですね。シリーズ本編にて、オスカー君の回想で一行だけ書いてます。
さて、どこまで話を膨らませられるかな(笑)
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




