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 2000年7月19日。京宮蛍はクジョウホテルの屋上にいた。彼の手にはドラグノフ狙撃銃が握られている。

 標的は杉浦渉とジャスティン・ポニー。この2人はエヌビアン共和国の機密データを国外に持ち出そうとした悪人だ。

 この2人が東都銀行で現金輸送車強盗を起こそうとしていることを京宮は知っていた。

 彼はその現場に2人が現れると思い、東都銀行が見えるビルで狙撃しようと計画した。

 ライフルを構えスコープを覗いていると、スコープに見覚えのある女が映った。その女は京宮の幼馴染である桐壷若菜だった。若菜は自動ドアから銀行内に入った。

 それから1分後現金輸送車が東都銀行の前に停車した。それを待っていたかのように2人組の覆面を被った現金輸送車襲撃犯は運転手に銃口を見せる。運転手は襲撃犯に脅迫され現金輸送車を開けた。

 その異変に警備員は気が付き、襲撃犯を押さえつけようとする。その一部始終を京宮はスコープ越しに見ていた。


 襲撃犯は警備員を押し倒そうとする。その瞬間を狙い京宮は引き金を引いた。それは正義の銃弾となるはずだった。襲撃犯が突然転倒して、銃弾がガラスを突き破るまでは。

 突然の狙撃に気が付き2人組の襲撃犯はキョロキョロと辺りを見渡す。その姿がスコープに映り京宮は悟った。暗殺が失敗したと。

 その銃弾は皮肉にも桐壷若菜の体を貫通した。そのことを彼が知ったのは夕方のニュースだった。

『午前10時頃東都銀行で現金輸送車強盗事件が発生しました。犯人は逃走中です。また襲撃犯の仲間の銃撃により、東都銀行を訪れていた桐壷若菜さん。23歳が亡くなりました』

 ラジオから流れたニュースを聞き京宮蛍は絶望した。この手で全く関係ない幼馴染を殺した。殺すつもりはなかった。あれは事故だった。だがマスコミは現金輸送車襲撃犯第三の人物による銃撃と報道している。

 

 その日から京宮は復讐に燃えた。これはただの自己満足だったのかもしれない。復讐によって過失により桐壷若菜を殺したという事実を隠蔽したかったのかもしれない。

 その現金輸送車襲撃事件から3年後京宮は風の噂を聞いた。復讐の対象であるあの2人がレミエルによって暗殺された。

 復讐の標的を失った彼は杉浦渉が自宅に盗んだ現金を隠していたことを知る。彼はその家に向かい、盗まれた現金を掘り起こした。

 13年前盗まれた現金が発見されても、名誉は挽回されなかった。誰もあれが事故だったとは信じなかった。

 復讐の標的を完全に失った彼は10年間悪夢に苦しんだ。


 京宮蛍は涙を流しながら合田に訴える。

「もう分かっているでしょう。藤原高明君は僕が桐壷若菜を殺したという間違った真実を告発しようとした。だから殺したんです。もう解放されたいんです。彼が間違った真実を告発しようとしていることをあのメールで知った僕は彼に口止め料として13年前盗まれた二千円札をプレゼントしました。しかし彼はそれを物的証拠として警察に告発しようとした。だから殺したんです。遺留品にあの二千円札が紛れ込んでいたら、警察があの事件を再捜査して、僕を悪夢から解放してくれると信じたから。だから殺したんです」

 その京宮の供述を聞き合田は激怒する。

「あなたが13年間苦しんだことは分かった。桐壷若菜は事故だったことを信じる。だがあなたは自分の手で幼馴染である藤原高明を殺した。結果的にあなたは2人の幼馴染を殺した。あなたは自分の罪を正当化したかっただけだろう」

 京宮はハンドガンをその場に捨てた。そのハンドガンを押しつぶすようにゴルフバックをその上に置く。

「出頭します」


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