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午前9時30分。合田は甲板で木原からの電話を受けた。
『木原です。こちらは面白いことが分かりました。犯人が狙撃したのはタカハラマンションの屋上。そのタカハラマンションを中心にした半径一キロ圏内に容疑者たちは揃っていたそうです。式部香子さんは横浜大学に通っていたため鉄壁のアリバイがあります。式部さんの父親も藤原高明さんの幼馴染ですが、ブラジルで仕事をしていたという完璧なアリバイがあります。この2人は容疑者から外してもいいと思います』
「なるほど。式部香子を除いた容疑者5人のアリバイには、空白の時間が5分あるからアリバイは完璧ではない。5分もあれば狙撃場所と職場を往復することも可能だろう。ところで狙撃場所で現場検証をしたのか」
『先ほど北条さんと清原さんの2人がしました。狙撃事件とは関係ないと思いますが、狙撃現場と思われるタカハラマンションの屋上の床に奇妙な落書きが書かれていました。落書きは数字の1です。赤いチョークで書かれていました。それとタカハラマンションの非常階段に設置した防犯カメラに犯人らしき不審な人物が映っていました。今からその不審人物の足取り捜査をします』
その証言を聞き合田警部の脳裏に真相が浮かんだ。
「犯人が分かった。後30分で船が東都港に戻る。それまでに東都港にパトカーを集めろ」
合田は電話を切る。するとまた合田の電話が鳴った。
『大野です。調べてほしいことを調べ終わりました。今から合田警部の携帯電話に暗号解読方法を記したメールを送ります』
「分かった。ところでお前らは今どこにいる」
『警視庁でデスクワークをしていますが』
「今すぐ東都港に向かってくれ。藤原高明を護送するパトカーが必要だ」
『ということは犯人が誰なのかが分かったということですか』
「そうだ。犯人はあの人だ。あの人が犯人だとしたら動機も説明が付く」
『そうですか。それでは今から東都港に向かいます』
合田は電話を切り、辺りを見渡す。パーティー会場となった甲板には、藤原愛衣と式部香子と宮本栞の3人しかいなかった。
「他の参加者はどこにいる」
「トイレです。トイレは船内にしかないので」
藤原愛衣の答えを聞いた合田は急いで船内にあるトイレに向かう。藤原高明を殺害した犯人による第二の犯行を阻止するために。
走り出した合田の後ろ姿を見た式部香子は宮本栞にウキウキしながら話しかける。
「見えてきたよ。警視総監賞への道」
「それは良かったですね」
クルーズ船は少しずつ東都港に戻ろうとしている。




