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その頃北条と清原ナギは、木原と神津と同行して、タカハラマンション屋上に臨場した。
「この屋上で犯人は藤原高明を狙撃したのか」
「はい。銃弾の発射角度等をシミュレーションした結果このマンションの屋上から狙撃された物と判断しました」
北条の推測を聞いた木原と神津はマンションの管理室に向かい、残った北条と清原は現場に遺留品が残されていないのかを探す。
遺留品らしき物は落ちていなかった。だが清原ナギはマンションの屋上の床を注意深く観察する。すると彼女はあることに気が付いた。
「北条さん。見てください。屋上の床にチョークの粉が付着しています。それも至る所に。もしかしたら犯人は柏木香織さんではありませんか。柏木さんは教師ですから、チョークの粉が付着していてもおかしくありません」
「それだけでは犯人と特定できません。もう少し柏木さんが犯人であることを示す物的証拠があればいいのですが」
北条は床に付着したチョークの粉を見てから顔を挙げる。すると彼の瞳に一つの落書きが映った。その落書きは赤色のチョークで書かれている。
『1』
「赤い落書き」
「何ですか。その赤い落書きって」
「9年前に発生した事件です。殺害現場に赤色で書かれた落書きを残すという犯行手口で行われた連続殺人事件。その通称が赤い落書きです。去年の7月にも同じような殺人事件が発生したのですが、覚えていないのですか」
「去年の7月ならアメリカ研修中です。捜査には参加していません」
「そういえば君は自分が関わった事件以外のことを忘れるようにしていましたね」
「血なまぐさい殺人事件に関しての記憶なんて日常生活に不必要でしょう。自分が関わった殺人以外のことまで覚えていたら、自分まで汚れるような気分になります」
それでも警察官かと北条は思った。
その頃木原と神津はタカハラマンションに管理室で防犯カメラの映像を見せてもらった。
犯行が行われた午前11時頃の防犯カメラの映像には怪しい人物が映っていた。それは非常階段に設置されたカメラに映っていた。
その人物はゴルフバッグを担ぎ、非常階段を下っている。顔はフードやマスクで隠れていたため分からなかったが、身長は160㎝くらいであることは分かった。その不審な人物の服装は黒色のパーカーにジーパン。
「こいつが犯人か」
「この不審者の足取り捜査をした方がいいかもしれませんね」
その頃クルーズ船シャイワーカー号の甲板にいる宮本栞はラグエルからのメールを受信した。
『レミエルがそっちに向かっています。後は手筈通りに進めてください』
「了解」
宮本栞は小声で呟き、ポケットに忍ばせたスタンガンを握る。




