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午前8時30分。大野と沖矢は公安調査庁に到着した。公安調査庁の駐車場には秘書である遠藤アリスが立っている。
大野が運転する自動車が駐車場に停まると遠藤アリスは会釈した。
大野と沖矢は遠藤アリスに案内され、公安調査庁長官室に入る。その部屋では浅野房栄公安調査庁長官が座っていた。浅野房栄は大野たちの顔を見る。
「まさかあなたがやってくるとは思わなかったのよ。沖矢君」
「本当は行きたくなかったのだよ。刑事は普通2人で行動するから、大野に同行しただけだよ」
謎の敵対関係が長官室を包み込む。それでも浅野房栄は笑顔になる。
「そろそろ用件を話そうかしら。あなたたち捜査一課3係は例の狙撃事件を捜査している。だけどあの事件の実行犯は危険なのよ。公安は実行犯を工作員Sとみて捜査しているのよ」
「工作員Sというのは」
「エヌビアン共和国の工作員で銃器の扱いに長けたスナイパー。彼が使用するライフルはドラグノフ狙撃銃。600ヤード先の標的を百発百中で仕留める実力者。3年前から工作員Sが関わったとされる狙撃事件やテロ事件が世界中で発生していないことから、死亡説も囁かれたけど、死んでいなかったみたいなのよ」
ドラグノフ狙撃銃と聞き大野はあることを思いだす。それは藤原高明が狙撃された事件で使われたライフルと同じであるということ。
「なるほど。その説は信憑性が高いのだよ。狙撃事件で使われたライフルも同じ奴だから」
「その工作員Sが藤原高明を狙撃した動機は何でしょう」
「工作員Sは黒幕の指示の元で狙撃したに過ぎないというのが公安の見解なのよ。今の所、工作員Sのようなテロリストと藤原高明との接点が見つかっていないから当然の見解なのよね」
「公安は工作員Sの身元を知らないのですか」
「日本国籍の37性別不明。これしか情報がないのよ」
沖矢はイライラとしながら浅野房栄に質問する。
「それで用件は何なのだよ。まさか工作員Sという危険な奴が犯人だから手を引けと言うことなのか」
「工作員Sに狙撃を依頼した依頼人を調べてほしいのよ。おそらくその依頼人は被害者の関係者の中にいると思うから。主犯を逮捕していいという許可を与えたから恩だと思ってほしいの」
浅野房栄という後ろ盾を手に入れた大野と沖矢は公安調査庁の駐車場まで歩く。
「日本国籍の37歳。性別不明。確か被害者の幼馴染たちも同じ年齢ですね」
沖矢はイライラとしながら大野の話に耳を傾ける。
「まさか被害者の幼馴染の中に工作員Sがいると考えているのだね」
「その可能性もあるということです。所でなぜイライラとしているのかを教えていただけませんか。浅野房栄公安調査庁長官と会った時からイライラとしていましたよね」
「義理の母親だよ。俺は浅野房栄の娘と結婚しているのだよ。どうにも好きになれないから敵対しているのだよ。この前もどうでもいいお土産の相談を受けて遅刻しそうになったからね」




