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 その頃合田警部は東都港にいた。彼の目の前には一隻の豪華客船が停まっている。この豪華客船シャイワーカー号で執り行われるクルーズパーティーに狙撃事件の容疑者たちが集う。

 このクルーズパーティー中に第二の殺人事件が発生する可能性もある。合田は第二の事件を防止するために、パーティーに参加する。

 合田が船内に乗り込むと、藤原愛衣が声を掛けた。藤原愛衣は黒いスーツを着ている。

「刑事さん。お待ちしていました。パーティー参加者は全員揃っています。船長さんの話によると10分後に出航するそうです」

「パーティー会場はどこだ」

「甲板ですよ。今日の天気は晴れですから屋外でパーティーをするそうです。潮風を感じながらパーティーを楽しみましょう」

 この冬の寒空に甲板を貸し切って屋外パーティーをする人がいることを知り合田は目を点にした。


 藤原愛衣に連れられて甲板にやってきた合田の目の前には6人の男女が集っていた。

「一人多くないか。確かパーティー参加者は七人と聞いているが」

 合田の問いに対して藤原愛衣は説明する。

「急遽一人増えたのですよ。式部香子さんの友人がどうしてもパーティーに参加したいと言われたみたいで」

「友人もパーティーに参加できたのか。それならもう一人くらい刑事を呼んでもよかったのではないか」

「すみませんね。そのシステムの説明を忘れていました。もうすぐ出航ですから今から仲間の刑事さんを呼んでも間に合いませんね」

 藤原愛衣はクスクス笑う。わざと教えなかったのではないかという疑いが強まった状態で船は出航する。

 

 クルーズ船が東都港を離れた頃、合田は急遽パーティーに参加することとなった若い20代女性の顔を見る。その顔に合田は見覚えがあった。正確には面識はないが、ある人物に似ているという印象を彼は受けた。合田は真実を確かめるため若い20代の女性に声を掛ける。

「警視庁の合田だ。もしかして君は麻生の娘の小早川せつなか」

「違います。小早川せつなは私の双子の妹です。私の名前は宮本栞。両親を失った私は親戚の家に引き取られて宮本性を名乗ることになったということです。もちろんせつなは別の親戚の方に引き取られましたが。もしかしてお父さんと一緒に仕事をしたことがあるのですか」

「そうだ。君のお父さんとは一緒の班だった。彼は優秀な刑事だった」

「因みに所属はどこですか。例の狙撃事件の捜査のためにこの船に乗り込んだなら捜査一課だと思うのですが」

「捜査一課3係だ」

「なるほど。縁がありますね。昨日大野さんに会いました。去年の10月は木原さんや神津さんに会いました。この3人は捜査一課3係の刑事ですよね」

「その通りだ。俺はその捜査一課3係で係長をしている。つまり君がこれまでに会ったのは俺の部下だ」


 2人が甲板で楽しそうに会話していると、式部香子が宮本栞に声を掛けた。

「知らなかったよ。しおりに双子の妹がいたなんて。どうして教えてくれなかったの」

「教える必要はないでしょう。私が去年の10月31日に発生したバスジャック事件の重要参考人だったことは覚えているでしょう。そしてバスジャック事件発生当時私は神奈川県警に小早川せつなを呼ぶよう説得されていました。バスジャック犯の要求は小早川せつなを呼び出すことであることはマスコミに伝えてあるため、テレビに小早川せつなという名前が報道された。もちろん顔写真付きで。以上のことから横浜大学関係者なら小早川せつなと宮本栞は何かしらの関係があるということを推理することができます。さらに言うなら小早川せつなの顔写真と私の顔が瓜二つなことから双子を連想することも可能です。完全記憶能力の持ち主であるあなたならこの真相に辿り着いていたと思いましたが」

「分かるはずがないでしょ。私は記憶力が高いだけで推理力ならしおりの方が上だから。しおりは知り合いが多いから小早川せつなさんが友達の一人だと思ったけど」


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