44.私の友達は、そういう奴だよ
その問いに、私は思わず首を傾げる。
意外そうな顔をして、妙なことを聞くやつだ。
「覚えているに決まっているだろう、君、私をなんだと思っているんだ?」
「だが、あの時の僕は、……公爵家の人間が、気にかけるような人間じゃなかった。兄や父と違って、何の才能もない、ただの……」
「関係ないよ」
「わぷ」
ぐしゃぐしゃと、彼の髪をかき混ぜてやった。
情けない声を出して、彼は私の手を払いのける。
文句ありげにこちらを睨んでくるアイザックに、いつもの調子が戻ってきたなと笑みが漏れた。
「あの時君と話したおかげで、私は君がどんな奴か知ることが出来た」
「……バートン」
「だからこうして友達になれたんじゃないかと思っているんだよ」
アイザックは、私の顔を何とも言えないような表情で見つめていた。
その鼻先に、私は人差し指を突きつける。
「だいたい、君は自分に才能がないとか言うけれど。十分に恵まれた物を持って生まれているじゃないか」
「……何?」
「君には努力出来るという才能がある」
「努力なんて、誰でも出来る」
「誰でも出来ることじゃない。みんなが君みたいに努力が出来たら、世の中には天才しかいなくなってしまうぞ」
茶化して笑うと、またアイザックの眉間の皺が深くなった。
肩を竦めて、その視線を躱す。
「普通の奴はね、アイザック。苦手なことを頑張り続けられないんだよ。得意なことでも、壁にぶち当たってそこから頑張れなくなってしまう人がたくさんいる」
そもそも論、努力を目的達成の第一手段だと考える人間もごく一部だろう。
いかに頑張らずに済ませるかを考える人間の方がよっぽど多い。誰だって、労せずして成果を得たい。
頑張らないと死ぬとか、行かず後家扱いで一生肩身の狭い思いをするとかでなければ、尚更だ。
「君は違うだろう? 努力という才能で、壁を乗り越えてきた。壁にぶち当たっても諦めずに頑張り続けて、壁を破ってここまできたんだ。散々ダンスや剣術の練習に付き合ってやった私が言うんだから、間違いない。君が持って生まれた才能は、君が今日まで磨いて養ってきた力は、そういうものだ」
アイザックが、自分の手を見つめる。
利き手にペンだこが出来ている。剣術の稽古のせいだろうか、手のひらの皮は豆が潰れて、硬くなっていた。
「一度や二度負けたからって、崩れてしまうような生半可なもので、アイザック・ギルフォードは出来ていない」
「……僕は……」
「私の友達は、そういう奴だよ」
アイザックと目が合った。
何だろう、いかにもTHE友情、THE青春と言う感じじゃないか。何となく気恥ずかしくなって、目を逸らす。
「はは、柄にもなく真面目なことを話したら疲れた」
他人を元気づけるというのは、難しい。頭を使ったので非常に疲れた。お兄様のことを心から尊敬する。
これなら脅すほうがよっぽど楽である。
「立ち直ったか?」
立ち上がって、彼に手を差し出す。
「……ああ」
彼は頷いて、私の手を取った。
昨日の更新にも書きましたが、活動報告にクリストファー視点の小話を書きました。
恋愛要素多めです。また、今回も長いです。
それでもいいよという方は、ぜひ覗いてみて下さい。
もちろん本編だけでも楽しんでいただけるようにしていますので、エリザベスと同じ気持ちで楽しみたいという方は読まないのも一興かもしれません。
でも頑張って書いたから読んでほしい気持ちはあります(?)
(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。





