43.私だったら発狂する
ブクマ、評価、感想、誤字脱字報告、いつもありがとうございます!
活動報告に、クリストファー視点の小話を書きました。
例によって本編を読む上では必要ない単なるオマケです。また、今回もとっても長いです。
それでもいいよという方は、ぜひ覗いてみて下さい。
(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。
ともあれ、まずはアイザックである。
教室に戻ってからというもの、彼は今にも首を括るんじゃないかというような顔で俯いていた。元の顔の作りが良いからか、悲壮感漂うその表情には妙な色気がある。
気持ちは分かる。なんせあのチョロベルトに負けたのだ。私だったら発狂する。
だが、このまま落ち込んでいられては困るのである。
無用の争いを避けるためには、ロベルトを元のがっかり第二王子に戻さないといけない。
そのためには、次の試験ではきちんとアイザックに勝ってもらわなくてはならないのだ。
それにアイザックがこのまま調子が戻らず、かつ主人公が遮二無二勉強を頑張ってしまったら、次の試験で、アイザックは主人公に負けてしまうかもしれない。
そうすると、強制的にアイザックのイベントが発生してしまう。
条件が厳しいだけあって、好感度の上昇率も大きいイベントだ。
起きることが分かっていても、さすがにこのイベントは横取りのしようがない。
主人公がアイザックルートに進んでしまっては、主人公に攻略してもらうという私の計画は水の泡だ。
国のためにも、私のためにも、さくっと元気になって、ガリガリ勉強をしてもらわねば。
放課後、帰ろうとするアイザックを捕まえて、よく2人でダンスの練習をする校舎裏まで引っ張って行った。
壁を背に、2人で並んで地べたに座る。
「アイザック。いい加減、辛気臭い顔をやめろよ」
わざと軽い調子で言ってみたが、アイザックの表情は晴れない。
俯いて首を振り、いつもより一段低い声で答える。その声は、僅かに震えているようだった。
「……負けたんだぞ、僕は。よりにもよって、あの、ロベルト殿下に」
おお、ロベルトよ。「よりにもよって」呼ばわりされているぞ。
学園での普段の様子は知らないが、少なくとも私にエスコートを申し込みに来て、ぶっ倒れたところはアイザックを含むクラス全員が目撃している。
周りにどのようながっかり第二王子扱いされているのかは、推して知るべし、である。
「アイザック。君は今まで一度も負けたことがなかったのか?」
「……いや」
「違うだろう? ずっと兄さんたちに負けて、勝てなくて、悔しくて、それでもやってきたんじゃないのか? その結果、一位を勝ち取ってきたんじゃないのか?」
脳みそをフル稼働させて、言葉を探す。
私も人望の公爵家の一員だ。お兄様だったら、何と声を掛けるか。それを考えれば、友達が言って欲しい言葉ぐらい思いつく。
普段は面倒だから、やらないだけだ。
「だったらもう一度、勝ち取ればいいだけだろう。今までと何も変わらない。ずっとやってきたことだ、アイザック」
「……バートン」
アイザックが、私を見上げる。眼鏡の奥で、大きく見開かれた赤褐色の瞳が揺れていた。
「私の知っているアイザックは、そういう男だ。蔑まれても、貶められても、蹴飛ばされても。それでも何度も立ち上がって、自分の土俵で戦うことの出来る強い男だ」
「お前、は」
アイザックが、じっと私の瞳を見つめる。無理やり絞り出したような、うっかり聞き逃してしまいそうなほど小さな掠れ声で、そしてやはり、震えている。
「本当に、覚えていたのか? 僕たちが、初めて会った日のことを」





