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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第1章 幼少期編

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7.アイザックとの邂逅

 アイザックは、乙女ゲームには欠かせない眼鏡キャラだった。

 宰相の息子で、馬鹿がつくほど真面目で堅苦しく、女嫌い。攻略するには勉強のパラメータを上げなくてはいけないタイプである。

 三つ子の魂百まで、と言うが、8歳時点ですでに眼鏡だったらしい。


 その彼が、3人の令息に囲まれ、地面にへたり込んでいた。彼の服は土で薄汚れ、頬は腫れて口の端が切れている。

 そしてなんと、眼鏡がひしゃげていた。

 おお、アイデンティティを歪めてしまうとは、容赦がない。


 眼鏡の男の子が、複数人に取り囲まれて罵声を浴びせられ、どうやら暴力を振るわれている。これは間違いない。いじめである。


 私には関係のない話だし、今私が見ていることに気づいているのはアイザックだけだ。このままそっと立ち去ることもできる。

 そして適当な大人に話して、様子を見に行ってもらうこともできるだろう。きっと、それが最良だ。


 だが、見方を変えればチャンスでもある。

 今のところ、私はお兄様と剣術の家庭教師としか試合をしたことがない。

 お兄様はさておき、家庭教師の方は私におべんちゃらを使って、わざと負けている可能性もある。


 無関係の第三者に、どれくらい通用するのか。それを試す絶好の機会ではないか。

 それも、「いじめを止めるため」という大義名分を背負って、である。


 なに、もし通用しなければ逃げ出せば良いだけだ。大声を出して助けを呼んでも良い。

 いざとなればどうとでもなるだろう。


 方針は、決まった。


 ざり、と土を踏んで、立ち上がる。その音に、アイザックを囲んでいる令息たちが慌てた様子で振り向いた。


「やぁ、アイザック」


 片手を上げて挨拶をする私に、アイザックは目を丸くする。初対面なのだから当然だ。

 こちらを振り向いた3人の令息たちも、見覚えのない顔ばかりだ。


 野心のある親なら年の近い子供を第二王子のもとに連れてきて挨拶をするだろうから見覚えがあるはずだし、本人たちに野心があれば、こんなところでこそこそしていないで、パーティー会場で人脈作りに勤しむだろう。

 つまりは、そのどちらでもないということだ。


 まぁ、挨拶に来たのに私が覚えていないだけかもしれないが。


「お嬢さん、迷子? パーティー会場はあっちだよ」

「俺たち、この眼鏡くんとちょーっとお話ししてるんだ。悪いけど、席を外してくれる?」


 令息の物言いで、私が覚えていないという可能性は雲散霧消した。

 公爵家のご令嬢と知っていたら、そして第二王子の婚約者だと知っていたら、こんな口の利き方はできまい。


 ただひとり、アイザックだけは私のことを知っていたらしい。顔色がさっと青くなった。

 そういえば彼は、親に連れられて挨拶に来た、かもしれない。覚えていないが。


「……それとも、君も俺たちとお喋り、したいのかな?」


 にやりと唇を歪め、令息の1人が私に歩み寄ってきた。

 背丈は私より少し低いくらい。特にがっちりしているわけでも、かと言って細いというわけでもない。至って普通の少年といった見た目。

 油断しきった動きだ。これはいける。


「よせ」


 ゆっくり脚を肩幅に開いたところで、アイザックの声がした。


「彼女は関係ないだろう」

「聞いたか?」

「彼女、だってよ!」


 アイザックの言葉に、令息たちはげらげらとおおよそ貴族らしくない笑い声を上げた。

 ふむ、私もよくお母様から「品がない」と言われるが、このように思われているとしたら心外だ。


「偉そうな口を利くんじゃ、ねぇ!」

「ぐッ!?」


 令息がアイザックの腹を蹴り上げた。

 アイザックは呻き、そして身を屈めてうずくまる。


「うーわ、弱っ」

「女の前だからってイキってんじゃねぇよ!」

「ダッセ」


 口々にアイザックを罵り、靴で踏み付けにする。よせと言われたが、これは放置できない。


「おい、やめないか」


 言いながら、私は間に割って入ると、アイザックを背に庇う。


「ぼ、僕のことはいいから」

「そうはいかない」


 アイザックが私の背中に声をかけるが、跳ねのける。みすみすチャンスを棒に振るものか。

 この位置関係の方が、仮に人に見られても「守っていた」という感が出てよいかもしれない。これでいこう。


「ヒュー、かっこいいねー」

「よかったなぁ、ガリ勉くん。女の子に守ってもらえて!」


 言うが早いか殴りかかってきた令息の拳を、私はそっと受け止めた。

 そのまま勢いを殺さず、彼の体重の乗った腕を引っ張るように、私も力を込める。背負い投げに似た形だ。

 違うのは、私が彼を地面に叩きつけるのではなく、カタパルトのように射出しようとしているところだ。


「そーれっ!」


 ぽーんと、勢いよく彼の体が宙を舞う。そこそこの高さの弧を描き、木々の間を割きながら茂みに落ちていく。


「は?」


 アイザックと、他の2人の令息の声が重なった。


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