24.おお、チョロベルトよ
「私だが」
「隊長!」
私に視線を向けたロベルトの顔が、パッと明るくなる。さっきまでの不機嫌な顔が嘘のようだ。
「そうか! 隊長もこのクラスでしたね!」
「ロベルト」
「あ、……はい、すみません」
低い声で名前を呼べば、学園内では隊長と呼ぶなと釘を刺していたのを思い出したのだろう。ロベルトはしゅんと小さくなった。
教室中は水を打ったように静まりかえり、私とロベルトの一挙手一投足が注目を集めていた。
「……あの、俺。婚約者のエリザベス・バートンを探しに来たのですが。もしかして、今日はいないのでしょうか」
そんな中に、ロベルトの問いかけが響く。教室の空気がぴしりと固まったのを感じた。
「……私だ」
「え? なんです?」
「だから、私だ」
きょとんとするロベルトに、私は小さく嘆息する。痛い。クラスメイトの視線が痛い。
「私が、エリザベス・バートンだ、君の、婚約者の」
「え」
今度はロベルトが固まる番だった。クラスメイトたちの、「マジかよ」の視線がロベルトに集まる。
「あの、冗談、ですよね?」
「私がそんなくだらない冗談を言うとでも?」
「だって、でも……」
「君の所属は?」
「…………バートン隊……」
私の言葉に、ロベルトはその場に崩れ落ちながら、蚊の鳴くような声で答えた。
もちろんそんな隊は実在しないのだが。
なんというか、本当に気付いていなかったのだなぁ。
おお、チョロベルトよ。私はお前の将来が心配だ。ついでにこの国の将来も心配だ。
ため息をつきながら、私はロベルトにそっと手を差し伸べる。ここは往来の邪魔になるし、そろそろお帰り願いたい。
呆然としたまま、無意識に私の手を取ったロベルトを引っ張り起こす。
そしてその耳元で、クラスメイトたちに聞こえないよう、唸るように忠告する。
「貴様、先程はとても令嬢にエスコートを申し込む態度ではなかったぞ。常に紳士たれという騎士の教えはどうした」
「あ……」
「未熟者め。貴様に私のエスコートなど百年早い」
そう言って、立ち上がらせた彼の肩を叩くと、私は今度こそ食堂に向かって歩き出した。
きっとクラスの皆からしてみれば、私が崩れ落ちたロベルトにやさしく手を差し伸べ、「気にするなよ」と肩を叩いてやったように見えるだろう。見えてくれ。
背後でバターンと何かが倒れる音がする。
ああ、午後の授業が憂鬱だ。あの教室に戻りたくない。
午後が護身術の授業だったのを良いことに、そのまま適当な空き教室で時間を潰して夕方遅くに帰宅した。
後日アイザックに教えてもらったのだが、結局ロベルトはそのまま私の教室で卒倒し、早退したらしい。
その後も熱が下がらないので、登校していないということだ。
おそらく知恵熱だと思う。
朝の更新時も書きましたが、活動報告に小話を載せました。
昨日更新分の内容を含むので、昨日更新分まで読んでからご覧いただくことをおすすめします。
作者の趣味で完全なモブ視点です。
本編を読む上では全く必要がない単なるオマケですので、それでもいいよという方はぜひ、覗いてみて下さい!
(R3.6.8追記)活動報告にあった小話は本編中の「閑話」、または「番外編 BonusStage」に引越し済みです。





