16.アイザックくんの友人なんですが
アイザックが学園を休んだ。
どうやら風邪らしい。
当たり前だが、この世界にも風邪というものはあるようだ。
それもそうか、主人公が風邪を引いて、攻略対象が看病に来るというイベントもあったぐらいだ。
ちなみに、私がエリザベス・バートンになってからというもの、風邪を引いたことはない。
医者のお世話になったのも、記憶が戻った初日くらいだ。
攻略対象は身体が資本、元気に越したことはないだろう。知らんけど。
誰かがアイザックに連絡の書類を届ける必要があるということで、クラス内で仲良し認定をされてしまっている私に白羽の矢が立った。
面倒だが、担任教師も女性である。女性のお願いごととあっては、ナンパ系には断る選択肢がないので仕方ない。
それほど歩かないうちに、アイザックの屋敷に到着した。いきなり馬車で乗り付けるのはどうなのだろうと考えた結果、徒歩での来訪である。
ギルフォード家の屋敷は、我が家に比べると2周りくらい小さく、装飾や庭木の形も簡素な印象だ。幾分現代的な感じがする。
友達らしい友達がいなかったので、私は自宅以外の貴族の屋敷をまともに見たことがない。
そのため、この屋敷が大きい方なのか小さい方なのかの判断がつかないが、まぁ、現宰相の家であるし、大きい方なのだろう。
門にくっついている呼び鈴を鳴らすと、中から壮年の男が出てきた。服装からして、執事だろう。
「すみません。アイザックくんの友人なんですが、先生から届け物を頼まれまして」
「……身分証を」
「はい」
ものすごく怪しいものを見るような目つきをされた。ちゃんと学園の制服を着ているというのに、何故だろう。
内ポケットから、身分証を取り出す。
いわゆる学生証のようなものだが、家の名前や家長の署名などがあって、偽造が簡単にはできないようになっている。
「ば、バートン公爵家!?」
「はい」
私の身分証を矯めつ眇めつしていた執事の顔色が、一瞬で青を通り越して真っ白になった。
「し、失礼しました、どうぞこちらへ!」
三下が言いがちな台詞ベスト3に入りそうな台詞とともに、驚くほど腰の低くなった執事が私を屋敷へと招き入れた。
相手の身分によって態度を変えるとは、これまた三下臭い。
私が公爵家としての権限を持っているような人間だったら、その態度ではかえって不興を買って、家主に文句の一つも言いそうなものだが。
まぁ、どれだけ謙られたところで、私には何の権力もないので、残念ながら彼の行動はどちらにせよ意味がない。
我が家の人間はみな優秀なので、私に権力を与えるとろくなことにならないと知っているのだろう。私もその方がよいと思う。





