11.やれやれ、困ったやつだ
「ちょっと! 危ないじゃありませんの!」
「そちらがぶつかって来たのだろう」
ダンスの授業の時間。
2人1組になってワルツを踊っていたところ、隣のペアがダンスを止めて、文句の言い合いを始めてしまった。
ちなみに詳細は省くが、ダンスの先生を無事たらしこんだので、私は男側として参加している。
男子生徒からしても、私の身長で女性側を踊られても困るだけだろう。私が男側を踊れば、誰も困らない。
私は女子をときめかせるチャンスを得られる。Win-Winだ。
言い合いをしているのは、アイザックと、彼とペアを組んでいたご令嬢だ。
アイザックは、身分が高くないのに実力で宰相までのし上がった新興の伯爵家の三男で、馬鹿がつくほど真面目で堅苦しく、女嫌い。
知的さ漂う美貌と眼鏡以外は、ご令嬢に好かれる要素のない男だ。
しかも、彼はどうやらダンスが下手らしい。その上で女性に対して態度が悪く、紳士のしの字もない。
よく攻略対象をやっているな、お前。
授業の都合上どうしても男女で――私のペアは女女だが――ペアを組まないといけないのだが、先ほどまで彼と踊っていた令嬢は、もう彼とは踊りたくないとお冠だ。
クラスの他のご令嬢たちも、彼とは踊りたくないと遠巻きにしている。
ゲーム内でも彼は気難しいキャラクターだった。
もちろん主人公には落とされるわけで、プレイヤーの間では美貌(と眼鏡)から一定の需要はあったが。
ところで、勉強のパラメータを上げないと落ちないキャラというのは、実際どうなのだろう。
現実世界で、勉強を頑張っているだけで落とせる人間が増えるとは、いまいち思えない。
特に学生なんて、魅力パラメータに全振りした方がいいんじゃないか。どうしてそのようなシステムにしたのだろう。
ペアの相手がおらず、不服そうな様子で腕を組んでいるアイザック。
やれやれ、これではクラスの雰囲気が悪くなってしまうな。
……待てよ。
完全に他人事として静観しようとしていた私は、ふと彼に目を留めた。
ここでクラスの困ったやつである彼をうまいこと処理すれば、ご令嬢たちからの私の評価は上がるだろう。うまくやればうなぎのぼりだ。
大手を振ってキャーキャー言ってもらえるかもしれない。
主人公が編入してくるまであと1年もない、今のうちに出来る限りのことをして、土壌を作っておくべきだ。
「やれやれ、困ったやつだ」





