5.ハンカチを噛んで悔しがる姿が見てみたい
いよいよ明日11/20から、モブどれの舞台(略称:モブどれステ)が始まります!
まだA席であればチケットが買えるお日にちもありますので、ご興味のある方はこの機会に是非ご検討ください!! 詳しくは活動報告へどうぞ。
行けない方もグッズだけでも!! 見てきてほしい!! です!!
殿下の纏う空気の温度がまた一段下がった気がした。
リリアと殿下の関係性は通常の王太子と男爵令嬢とは大きく異なっている。
やたらとつっかかる殿下にリリアも遠慮なく応戦している様子だし、これは友達と言って差し支えないと思うのだが。
学生の時分ならともかく、卒業してしまえば1歳や2歳の差は誤差のようなものだ。友達たりえない理由には当たらない。
身分の差はあるがそこは大聖女、そもそもの基準からいって埒外の存在だろう。誰もツチノコに礼儀は求めまい。
そして何といっても、乙女ゲームの時間軸ではすでに前作扱いとはいえ主人公だ。
王太子殿下ともっと深い仲になっている可能性だって十分にあったわけである。それを「友達」くらいで何を目くじらを立てることがあるのか。
――ああ、そうか。つまり「友達」以上を望んでいるからという反応なのか。
「誰と誰が? 友達?」
リリアが自分を指さして、その次に殿下を指さした。
ひくりと殿下の口元が引きつる。おお、珍しい。王太子スマイルが揺らぎかけているぞ。
「よく言う、泥棒猫」
「わ、わたしが泥棒猫ならあなたは女狐ですかね~」
何やら小声で言い合っているが、穏やかとは言い難い雰囲気だ。
この2人がどうしてこうもギスギスしているのか、現在に至るまで謎なままだ。何なら年々ギスついている気すらする。
何故私がロベルトに慕われているのか分からないのと同じくらい謎である。この国の七不思議のひとつに加えておいてほしい。
「でも、それ言ってもあの子、態度が変わらないんですよ~! おやおや~? これはもしや、王太子殿下が馬鹿にされているのでは~?? みたいな?」
「…………」
「っていうか、王太子殿下の威厳をお借りしても効果がないって、や、やっぱり」
リリアが王太子殿下の顔を覗き込んで、こてんと首を傾げる。
その仕草は妙にこなれていて――さながら、悪女のようだった。
「威厳って、一朝一夕では身に着かないから、しょうがないんですかね~?」
「ふぅん」
殿下が口を開いた。
にっこりと唇で弧を描くその表情も、どこか悪女じみていて。
美人が怒ると怖い、というのをまざまざと体現していた。
「勝手に人の名前を出しておいて、ずいぶんな言い方だね」
冷ややかな微笑に、リリアの肩がわずかに震えた。踵がかすかに後ずさりを始める――が、後ろからその肩を掴んで逃がさない。
「そういうわけですので、ぜひとも巫女候補の前でリリア嬢をちやほやしていただけないかと」
「安い挑発に乗るほど暇じゃないよ」
「そうおっしゃらず。アイザックも協力してくれますので」
「ギルフォードも?」
王太子殿下が3歩ほど離れたところでまるで他人のような顔をしているアイザックに視線を向けた。
何故他人のような顔をしているのか。まるで殿下とリリアの痴話喧嘩に巻き込まれるのはごめんだとでも言いたげである。
そんなもの私だって巻き込まれたくない。
他人のフリを諦めたアイザックが、眼鏡の位置を直す例のポーズをしながら端的に答えた。
「やむを得ず」
「…………そう」
王太子殿下がふっと視線を伏せた。上から見下ろした時の伏し目の睫毛の盛れ方に新鮮に驚愕していると、ふっとアメジストの瞳が私を捉えた。
「分かった。協力しよう」
「さすがは殿下。寛大な御心に感謝を」
「ただし」
殿下の唇が、再び弓なりに弧を描く。
にっこりと効果音付きで微笑んで、あざとさ満点に小首を傾げた。
「さぞ可愛らしく妬いてくれるんだろうね?」
その言葉に、私も首を傾げる。
巫女候補が妬くかどうかは保証しかねる。殿下推しとも限らないしな。
だが私も彼女がハンカチを噛んで悔しがる姿が見てみたいと思っているので、似たようなものか。





