リジーの初恋(お兄様視点)
モブどれ6巻の発売日が決定しました~! 2025年4月1日に発売予定です!
さらに6巻表紙のイラストを使ったアクスタも!! 作っていただけることになりました!!
さらにさらに、サイン本とアクスタのセットも販売していただけることになりました!!
詳しくは活動報告に書きましたので、ぜひご確認いただけますと幸いです。
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活動報告にあった小話を引っ越しました。
時系列としては、「第2部 第6章 魔女編」の途中あたりでしょうか。
エリザベスとお兄様がお話しているだけです。
「大きくなったら、カイン兄様と結婚する!」
「えっ」
リジーの言葉に、僕は手に持っていたクッキーを取り落とした。
「どっ、うぇ、ど、どどっ、どうしたの、リジー!」
「だってカイン兄様、かっこいいもの」
おろおろするばかりの僕をよそに、リジーはにこにこと楽しそうだった。
「かっ、こいい、ね、うん、確かにかっこいい、と、思うよ、うん」
「それにね、やさしいの!」
「ええと、やさしいのは、いいことだよね、」
「あとね、走るのがはやいのよ!」
「は、走るのが……速い……」
◇ ◇ ◇
「……なんて。あの時は本当にショックだったなぁ」
「お兄様。いつまでも昔の話をしないでください」
やれやれと苦笑いする。
しみじみ言われても、私には全く覚えがないのだ。
どうでもいいが、子どもの頃に走るのが早い男の子がやたらとモテるのはどういう仕組みなのだろう。
スポーツ選手がかっこいいとか、そういう感情とはまた別の何かがあるような気がしてならない。
たとえば野生動物だった時の本能的なものとか。
「カインさん、リジーのためにリスを捕まえてきてくれたこともあったし。確かにリジーにも僕にも、いつもやさしくしてくれて」
それは「足が速い」で済ませていい範疇だろうか。
第一師団としての身体能力を遺憾なく発揮している。
本当に隠す気があったのだろうか、あの人。
「それに何より、今も昔もすごくかっこいいし。だからリジーがそういうのも当たり前かな、とは思うんだけど」
お兄様の言葉に、ふんと鼻を鳴らす。
随分と先生のことを褒めるではないか。
先生やお兄様の話を聞くにつけ、よく遊んでもらったことは確かなようだが……それにしたって、お兄様が誰かのことを「格好いい」なんていうのは珍しいので妙に引っかかる。
昔の私がそう言ったから、というだけの理由だとは思うが……何となく。
そう、何となく、面白くない。
「お兄様」
「うん?」
「私とどちらが格好いいですか?」
顔を覗き込むと、お兄様がきょとんと目を見開いた。
しばらくぱちくりと目を瞬いた後で、ふっと吹き出すと、口元を押さえてくすくすと笑う。
「ふふ。そんなことで張り合わなくても」
「別に張り合っているわけでは」
「そうだね、もちろんリジーの方が格好いいよ。何てったって、僕の自慢の妹だからね」
お兄様がにこにこと、何故だかやたらと嬉しそうに笑っている。
そのお兄様の言うところの「格好いい」には、少々不純物が含まれていやしないだろうか。
微笑ましいとか、そういう類の。
「あ。でも、そっか」
「?」
「あのあと少しして、君はロベルトくんと婚約したから、リジーの初恋は叶わないのかなって思ったんだけど。今なら……なんて」
お兄様が何やら言っているが、私は途中で出てきた単語が気になって入ってこなかった。
「ロベルト『くん』?」
「……あ」
お兄様が両手で口を覆った。そんなことをしても手遅れである。覆水盆に返らずだ。
どういうことだ。お兄様とロベルトにはさほど接点はないはずで、前は「ロベルト殿下」と呼んでいたはず、なのに。
「リジーたちが西の国に行ってる間に、一緒にお茶したんだ。そうしたら仲良くなってね」
「お兄様」
やれやれと額に手を当てながら、ため息をつく。
王太子殿下の覚えめでたいだけでなく、将来の王弟まで手玉に取っているとは。
さすがは人望の公爵様だ、と言わざるを得ない。
得ないが、だからといって、これ以上お兄様の周囲に侍る顔の良い男が増えるといよいよお兄様の性癖が歪みかねない。
というか周囲の視線がそういう、ディーが私たちに向けるのと同じアレになりかねない。
いけない。
お兄様にはお兄様に見合う素敵な伴侶が現れてほしいと思っているのに、これでは婚期は遠のくばかりだ。
「誰彼構わず誑かすのはやめてください」
「誑かしてないよ!?」
「お兄様にその気がなくてもダメなんです」
「何だか僕、ものすごく理不尽なことを言われてる気がする……」





