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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

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番外編 リチャード視点

偽物編の番外編をUPします。

時系列としては偽物編が終わった直後ぐらい、リチャード視点です。



 ディアグランツ王国、来賓用のゲストルームのうち、ウチの姫さんに割り当てられた部屋を訪れた。

 だいぶ荷造りは進んでいるようだ。

 オレの方はまだあまり手をつけていない。けど、元々荷物も多くない。どうとでもなるだろう。


 ドレスについてあれこれ侍女と話しているマリーの隣に、どかりと腰を下ろした。

 はぁ、とため息をついて、膝の上で組んだ指に、額をぶつける。


「何よ、リチャード。ちゃんと荷造りしてるわよ」


 マリーが不満そうに口を尖らせた。

 違う、別に進捗に文句を言いに来たわけじゃない。

 俯いたまま、ぽつりと言う。


「…………フラれた」

「え?」


 ちらりとマリーの顔を見る。

 目を丸くして、ぽかんとしていた。


 だから嫌だったんだよ、とさらに頭が痛くなる。

 オレとエリザベスの結婚を祝ってくれたマリーに、これを打ち明けるのが嫌だった。

 こんなの、どんな顔して話していいか分かったもんじゃない。


「フラれた、って、何したのよ」

「何っていうか」

「いきなりきせーじじつとか作ろうとしちゃダメなのよ」

「それは姫さんでしょ」


 詰め寄ってくるマリーをどうどうと窘める。あの時はほんと、大変だったんだからな、まったく。


「もともと、北の国の王族を追い返すための、偽物の婚約者役を頼まれただけで」

「にせもの」

「だからその件が片付いたからもう、用済みっていうか」


 言いにくさに口籠っていると、がたん、と音を立てて姫さんが立ち上がる。


「それで何もせずに『はいそうですか』って帰ってきたの!?」

「いや」

「意気地なし! きせーじじつ作ってやりなさいよ!!」

「姫さん」


 反省してねぇな姫さん。

 この前はいつの間にか大人みたいなことを言うようになったもんだと感動したのに。

 姫さんは一旦椅子に座り直して口を閉じたものの、すぐにオレに向き直った。


「そんなの、ダメよ! だってリチャードは、エリックのこと」

「ちゃんと言った」


 マリーの言葉を遮った。

 マリーは今にも泣き出しそうな表情をして、オレの顔をじっと見つめている。

 何だよ、その顔。

 まるでお前がフラれたみたいなさ。


「言いたかったことは、全部言った。そんで、フラれた」

「…………そう」


 オレの言葉を聞いて、マリーがそう小さく呟いた。

 オレに向けていた身体を正面に戻して、背もたれに身体を預ける。


「エリザベスも見る目ないわね」

「それは、どうだろうな」

「当たり前でしょ。あたしのこと好きにならない時点で見る目ないもの」

「はは」


 ふんとそっぽを向くマリーに、苦笑した。

 まぁ、うちの可愛い妹に靡かないってんなら、確かに見る目がないかもな。

 しばらく黙っていたマリーが、ぽつりと静かな声音で言う。


「でも、ちゃんと気持ちを伝えたのは……偉いって思うわ」

「そう、か?」

「いっつもあたしたちのことばっかりで、全然自分のために動かないんだもの」


 じろりと睨まれた。

 その瞳に睨まれると、弱い。

 マリーも、ダイアナも。2人とも時々そういう目でオレを見る。仕方ない兄さん、と言いたげな目だ。

 オレと同じ、金色の瞳で。


「あたしたちの自慢の兄さんを振るなんて。エリックもきっと後悔するわよ」


 何となくむず痒くなった。

 お前たちのためとか、そんなたいそうなもんじゃない。オレはオレの罪滅ぼしのために、せめて。そう思っているだけだ。


 しばらく不満そうにむくれていたマリーが「あ」と口を開いた。

 そして恐る恐ると言った様子で、こちらを振り向く。


「お姉様への手紙に、エリックとリチャードが結婚するかもって書いちゃったわ」

「あー……まぁ、ディーは大丈夫だろ。マリーよりしっかりしてるし」

「どういう意味よ!」


 どういう意味も何もないだろ。

 恋多き――と言うと何だか聞こえがいいが、要は惚れっぽくてすぐ好きだ何だと言い出すマリーと違って、ダイアナはその辺りは得意ではなさそうだ。

 だからこそ、「結婚したい相手がいる」なんて言い出して大騒ぎになったわけだしな。


 そういうのも、第一王女の重責からなのかと思うと……もうちょっとマリーみたいに気軽に生きてくれてもいいんじゃないかと思わないでもねぇけど。

 しばらくうんうん唸っていたマリーが、何かに気づいたように手を打った。


「そうだわ! リチャードも次の恋を見つければいいのよ! あたしみたいに!」

「え?」


 思わず聞き返した。

 嘘だろ。この前「エリック」に惚れたばっかりで、しかもそこで衝撃的な失恋の仕方をしたばかりで……これはさすがに、ウチの姫さんも恋だの何だのには懲りただろうと、思ったのに。


 震える声で、名前を呼ぶ。


「マリー?」

「ふふ。あたしも出会っちゃったの! この国で素敵な殿方に!」


 マジかよ。

 心の中で天を仰ぐ。

 ちょっといくらなんでも打たれ強すぎるだろ、姫さん。

 爛々と瞳を輝かせるマリーに、オレは動揺しながらも問いかける。


「誰、どこのどいつ」

「宰相様」

「宰相様!?」


 マリーの言葉をオウム返しした。

 マリーは頬を染めて恥ずかしそうに、こくりと頷いた。


 宰相、と言われて最初に浮かんだのは、エリザベスの「親友」とかいう眼鏡のアイツだが――あれは宰相「子息」だ。

 宰相は確か、この国に来て王族やら大臣やらの偉い連中との会談で会った――


「ま、待て、この国の宰相って確か」

「憂いを帯びた眼差しと、苦味走った大人の魅力がすっごくかっこいいのよ!」

「めちゃくちゃ年上だろーが!!」

「愛に年齢なんて関係ないわ!!」

「あるわ!!!!」


 叫んで、頭を抱えた。


 貴族同士の結婚、そりゃあ年の差があることだって少なくない。

 でもあれは違うだろ。エリザベスと同じ年の子どもがいるってことは、普通に親子の年齢差だ。しかも子持ちって、初婚ですらない。

 ていうか既婚者だ。下手すると女に惚れる以上の茨の道じゃねーか。


 言いたいことは山ほどあるけど、ありすぎてすぐに出てこない。

 目を回しているオレのことなどお構いなしに、マリーはうっとりと指を組んで中空を見上げている。


「奥様を十年以上前に亡くされたのに、再婚せずにいるんですって! きっとあたしと出会うのを待っていてくれたんだわ! これってきっと運命よ!!」

「待て待て待て、ダメです、兄さんストップですそれは、さすがに!!」



 ◇ ◇ ◇



「まぁ、そうだったのですね」


 西の国に戻って、留守を任せていたダイアナにことの顛末を報告した。


 オレとしちゃ姫さんの年の差恋愛の方に「姉さんストップ」をかけてやってほしかったんだが――オレのいうことよりダイアナの言うことの方がまだ聞く、気がする――ダイアナはそっちよりもオレの話が気になったらしかった。

 傍目に見ても分かるくらいに落ち込んで、肩を落としている。


 そんなにオレの結婚を喜んでくれていたのか、と思うと、申し訳ない気分になる……ところだろう、普通は。

 だがオレにはそれよりも、気になって気になって仕方がないことがあった。


「何でオレとアイツの絵がこんなにたくさん」

「推し活ですわ!!」


 ダイアナが目を爛々と輝かせて、ぐっと両手の拳を握りしめた。

 こんなに生き生きしているダイアナを見るのは子どもの頃ぶりだ。

 ……その私室がオレとエリザベス・バートンの絵で埋め尽くされていなければ。


 何だこれ。どれもやたらと美化されているし、むやみに距離が近い。

 さすが王城で雇っている宮廷画家だけあって絵の腕前はたいしたもんだが……その画力で何を描かされてるんだ、これは。


「ダイアナ?」

「ですが、やはりわたくしの頭の中のものをそのまま絵に、というのは難しいようで」

「そうだろうけど」

「ですから、わたくし自分で描いてみようと思いますの!」

「は???」


 完全に置いてけぼりになっているオレをさらっと無視して、ダイアナがまっさらなカンバスを手で示した。

 その近くには真新しい画材がこれでもかと積まれていて、横には絵画の指南書も置いてある。


「画家に絵を習い始めましたの! 何か趣味があった方が公務にもメリハリをつけられると思いまして」

「だ、ダイアナ????」

「安心してくださいまし、兄様。リリア様によると、わたくしは『ハピエン厨』というものだそうで」


 ダイアナがオレに歩み寄って、ぎゅっとオレの手を両手で力強く、握った。

 ダイアナの言葉が耳を滑っていく。


 何だこれ。恋に恋するマリーはともかく、ダイアナはしっかりしていると思っていたのに。

 むしろ年の割にしっかりしすぎで、それを申し訳なく思っていたのに。もっと子どもみたいにはしゃいでいたっていい年なのにと、そう思っていたのに。


 いざ、子どものように目を輝かせるダイアナを前にして――頭を抱える羽目になるとは、思わなかった。


「絵の中では、わたくしが2人を幸せにしてみせますわ!!」

「ダイアナ!!??」



 あの時。エリザベス・バートンに、「ダイアナやマリーを置いていけないだろう」と言われた時。

 オレは――「アンタが言うなら、この国に残ってもいい」って。そう言おうと、ちょっとだけ思っていた。

 だけど、言えなかった。

 アイツの中では、オレは2人の良い兄さんで。それを、壊したくなくて。


 だけど、今分かった。

 オレ、置いていけないわ。この2人のこと。

 ダイアナも、マリーも……心配すぎる。


 別に、大したことが出来るわけじゃねぇけど。それでも、オレは。

 もう少しこの娘たちのこと、見守ってやらないと。

 せめてどっちか、嫁に行くまでは。



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― 新着の感想 ―
マリーとっとと嫁に行け。宰相さんをガッチリホールドして釣り上げるんだ手段は問わん。 んでもってリチャードをとっととエリ様の元に送り返してくれ。
リチャードが良い奴過ぎて泣く(´;ω;`) 他の誰より幸せになって欲しい!!!
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