表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

560/597

エピローグ(3)

エピローグが長くて恐れ入ります……!

次で最後の予定です。



「エリ様に魅了の話を初めてした時……『エリ様にはもっと魅了が効くはずなのに』って話したの、覚えてます?」

「覚えてない」

「あの時から――もしかしてって、思ってたんです」


 リリアがわずかに瞳を伏せた。


 どんな話をしたか、詳しくは覚えていない。

 だがリリアが――聖女が魅了の力を持っていると聞いたのは、私がリリアにネタバラシをしてからそう経っていない頃だったはずだ。


 その頃から、リリアは。

 お兄様に魅了の力があるのではと考えていた……ということか。


「魅了って、耐性が出来るらしいんです。だから親兄弟には効かないんです。だから、エリ様の近くに、魅了の力がある人がいるんじゃないかって。それが――『人望』なんじゃないかって」


 リリアが顔を上げて、私をまっすぐに見つめる。

 琥珀色の瞳に、目を見開いた私の姿が映っていた。


「エリ様のお兄様、わたしに会っても、目がハートにならないし。魔女の力で皆がエリ様のことを忘れても、覚えてた。あの時エリ様のことを覚えてたのって、わたしとレイちゃんだけで。つまり、聖女の力を持っていた人だけなんですよ」


 お兄様の姿を思い浮かべた。

 ただ一人、私のことを覚えていて……すっかりやつれてしまったお兄様の姿を。


 戻ってからというものこの世に占めるお兄様の体積を増やすべく努力してきた甲斐もあってだいぶんもちもち度が増してきたが、まだ全盛期には程遠い。


「それで、今回。公爵家の誰も、――あの、怨霊に取りつかれなかった。それって、エリ様のお兄様に、聖女の力が――魅了の力が、あるからなんじゃないかって」

「魅了、ね」

「人望の公爵家の『人望』の正体って、そういうことなんじゃないかって」


 リリアの言葉を、噛み砕いて飲み込んだ。


 お兄様の、人望の公爵家の持つ「人望」。

 それが、たとえば魅了の力によるものだったとしたら。

 ――だとしたら?


 そこまで思考して——私は、考えるのをやめた。

 それが必要ないと分かったからだ。

 リリアと真正面から向き合って、言う。


「それがどうかした?」

「……うぇ?」

「私はお兄様の家族だ。仮にお兄様にそんな力があったとして――君の理論なら、私にはその効果がない」

「そ、れは、そう、ですけど」


 リリアが頭から疑問符を飛ばしながら、こてんと首を傾げる。何が言いたいか分からない、という顔だ。

 それを受け流しながら、私はティーカップを口元に運ぶ。


「私には、それで十分だよ」


 まだはてなを浮かべているリリアに、ふっと思わず笑みが漏れた。


 私は自分が一番大切だ。自分の気持ちが、一番大切だ。

 他人のことなどどうでもよい。他人の気持ちなど、どうでもよい。


 私がお兄様に感じているのは、お兄様が私にしてくれたことへの感謝であって、家族への愛情であって……それはすべて、私の気持ちだ。

 これは私だけのものだ。

 他の誰にも、魅了にも、干渉させない。

 それがはっきりしていれば、他は私にとっては、取るに足らないことだ。


 そもそも魅了が効きにくいネームドキャラである攻略対象たちもお兄様の人望には抗えないようなので、お兄様が愛されている所以というのはやはりあの人柄であって、結局のところモブ特攻の魅了などあってもなくても、たいして関係ない気もする。


「お兄様が私のことを覚えていたのだって、単に『愛の力』かもしれないだろ」

「あ、愛!?」

「家族愛」


 素っ頓狂な声を出すリリアを睨んだ。

 愛で何が悪い。家族愛だって立派な愛だろうが。


 お兄様だけが私のことを覚えていた。その理由の本当のところは、私には分からない。

 たまたま私を探して国境付近をふらふらして、北の国側に入っていたからかもしれないし、リリアの言う通り魅了の、聖女の力があるのかもしれない。

 だが――本当に、家族愛によるものかもしれない。


 かの世界的に有名な魔法学校を舞台にした小説でも、幼い主人公を死の魔法から守ったのは、母親の愛だった。

 それがあったからこそ額に稲妻の傷がある彼は「生き残った男の子」たりえたわけである。


 況やここは乙女ゲームの世界。「愛」とやらが何よりも強い力を持たなくては、格好がつかないだろう。

 それこそ、「真実の愛」とやらが、何をおいても最も強い。そうであるべくして作られた世界のはずだ。


「で、でも、それだとわたしの魅了が効かない理由にならないような」

「お兄様は全人類に対して博愛主義だから。全人類が心に決めた人、みたいな。そういうことじゃない?」

「エリ様ってお兄様のことになると途端にポンコツにな、い、いひゃい、いひゃいれふエリひゃま」

「君がどう考えるかは勝手だけど、私がどう考えるかだって自由だろ」


 大げさに騒ぐリリアの頬を軽く抓りながら、言う。


「それで? 話はこれで終わり?」

「い、いえあの、本題はこっから、っていうか」


 リリアが何やら口ごもって、言葉を切った。

 ちらりとこちらを見上げるので、頷いて続きを促した。


「エリ様も、公爵家のひとじゃないですか」

「前世はともかくね」

「……だから、エリ様にもそういう『人望』が、あったりするのかも、みたいな。わたしが言いたいのは、そういう話です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
まぁ、もしエリザベス・バートンに魅了みたいな人望があったら悪役にならなかったんじゃ?
「魅了」というとあまりよくないスキルのイメージですが、「魅力的な人にぽーっとする」のは普通によくあることですよね。でも「カリスマがあって人に頼られたり仲良くされたりするようになる」というような「人望」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ