表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

555/597

41.恋愛

 去年まで、主人公に攻略されるために生きてきた。

 その途中で私に好意を伝えてくれた女の子の人数は両手ではきかないくらいだ。

 手紙をもらったことも、呼び出されて直接交際を申し込まれたこともある。


 そのたびに私はそれを断った。

 ナンパ系らしく、女性に好かれるように振る舞っている。

 男慣れしていない純粋な女の子の気持ちを弄んでいる自覚はあったし、告白されたとしても驚きはなかった。


 もちろん1人1人にきちんとありがとうと伝えたが、断るところまで含めて一つのお決まりの儀式というか。

 彼女たちにとっても、そうであったのではないかと思う。


 努力の甲斐あって主人公から告白されて、私はそれも断った。お友達でいましょうねと友情エンドを選んだ。

 それを目的に十年やってきたのだから、当然だ。


 その後もことあるごとに付き合ってくれだの何だの言われてはいるが、今のところそのつもりはない。リリアが真剣に言っていることは理解しているが……真剣に取り合ってこなかった。


 彼女に選ばれるために、彼女が喜ぶように振る舞っていた。

 そうなるのは当然だと思っていたし……それは私が仕向けたもので、リリアもそのうちに目が覚めるだろうと思っているからだ。


 どの告白も、私の答えは決まっていた。何なら告白されること自体が織り込み済みだった。

 だから何も、考える必要がなかったのである。


 だがここにきて、初めてその規定外の告白に直面して……私は当惑していた。

 リリアに告白されたダンスパーティーの日。いつかは恋をしてみてもいいのかもしれない、とか、そんなことをぼんやりと思い描いた。


 実際に思い描いたのはその時だけで、西の国やら魔女やら天下一武道会やらで、そんな余裕はまったくなかった。

 卒業後の進路と同じだ。そういう漠然とした未来に向けて何かを思い描くという能力が育たないままここまで来てしまった。


 今のままではなく、いつかは考えなくてはいけない。変えなくてはいけない。

 それを私はずっと、後回しにしてきたのだ。

 夏休みの宿題と同じだ。いつかはやらなくてはいけないことは理解しているが……尻に火がつくまでやれない。

 私は元来そういう人間なのである。


 前までは良かった。攻略対象になるという明確なビジョンがあった。それはある意味で……それ以外のことを検討しなくていい状態だったのだ。常に選択肢が明確だった。

 選ぶというのは脳のリソースが必要だ。そしてとても、疲れる。


 絶対に幸せになれると信じて、常に最短距離を選び取った。そこにある障害など気にしていられなかった。気にせずにいられた。

 だが、今は違う。


 乙女ゲームは終わった。

 しかし、私の人生は続いていく。


 随分前に実感したはずのそれが、また新しく実体を伴ったものとして、私の目の前に現れた。

 そんな気がした。


 リリアと向き合った時のことを思い出す。

 あの時、答えは決まっていた。

 あの時も……せめて、私が弄んでしまった彼女への最低限の敬意として、私の言葉で答えるべきだと思って、そうした。

 私が背負うべき業だと思ったからだ。


 リチャードを見つめる。

 彼の気持ちまで私に背負う責任があるかというと、そこまでは思わない。

 だが少なくとも、あの時と同じに――私の言葉で、答えるべきだ。


「ありがとう。正直まだ、うまく飲み込めてない。でもそう言ってもらえたことは……嬉しい、と思う」


 ナンパ系として長年暮らしてきた。女性を誑かしてちやほやされるのは正直言って楽しいし、可愛い女性は見ていて癒される。得をすることも多い。

 だからといって自分の恋愛対象が女性だけなのかといえば、そうではないと思う。

 何せ前世ではかなりの数の乙女ゲームをプレイしていたのだ。男性も守備範囲内と考えるのが自然だ。


 リチャードのことは、特別好きというわけでもないが、嫌いでもない。

 友人としてなら仲良くやれると思う。


「だけど、ごめん。たぶん私には、同じものが返せない」


 友人としてなら、仲良くできる。

 だがそれ以上の関係となると、まったく想像できなかった。

 自分自身の幸せな将来すらまともに思い描けないのである。


 その隣に彼がいるか、どうか。

 私には想像ができなかった。 

 その理由は、簡単だ。


「私にはもっと、大事なものがあるから」


 私の言葉に、リチャードが目を伏せて、小さく息をついた。

 私がどう答えるか、彼も予測はついていたのだろう。

 どうして予測できるのか。

 ――彼もきっと、私と同じだからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
いや。それでも言葉にしてはぐらかさずにちゃんと真っ向からエリ様に『お前が好きだよ』って言えたのはリチャード、貴方が初めてですよ!! 遠距離夫婦別離生活で、何が問題ですか、全くの無問題ですよ!!! エリ…
う、うわぁあああああああ(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝) 分かってた。分かってたけど!ちゃんと真面目に返事を返したのは偉いけど! リチャードぉぉぉぉ(⚲□⚲) きっとお兄様(家族)以上…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ