表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

544/597

30.生理的微笑がどうとか社会的微笑がどうとか

 最初はとぼけているのだと思ったそうだ。

 取り調べを担当していた尋問官も、己の罪を軽くするために知らないふりをして誤魔化そうとしているのだと考えた。


 しかし、ここまで散々乳児の話をしていたのである。今更そんなことをしても効果がないことは誰でも分かる。


 次に、気がふれてしまったのかと考えた。

 長い時間それなりに厳しい取り調べを受けている。可能性としてはゼロではない。


 だが――乳児のこと以外では、受け答えはしっかりしているのだそうだ。

 それまで言わなかった名前も、出身地も、すべてすらすらと答えた。ここしばらく――公爵家に乳児を連れて現れる2日ほど前から取り調べを受けるまでの記憶がすっぽりないことを除けば、異常は見られなかった。


 これには尋問官も困ってしまい、奇妙な事態に首を捻るばかりだという。



 ◇ ◇ ◇



「この子、どうなっちゃうんでしょう」


 知らせを聞いたクリストファーが、乳児を見ながらぽつりと言う。

 乳児はこちらの事情などつゆ知らず、一人で機嫌よくほにゃほにゃ喋っていた。


「さぁ? 教会の孤児院あたりじゃないか?」


 サイドプランクをしながら適当に応じる。

 いくらやさしい世界とはいえ、さすがに素性の知れない乳児を引き取ろうという人間はそうそういないだろう。

 一番ありそうな選択肢を答えたところ、クリストファーの表情が曇る。


「……うちで引き取れない、ですか?」

「クリストファー」


 上目遣いをされても、そして我が家の誰もが末っ子の彼に甘いといえども――それは、いくらなんでも無理筋だ。

 クリストファーもそんなことはもちろん、理解しているはずである。

 名前を呼んだだけでそれはよく伝わったらしい。彼は目を伏せながら、乳児を見つめる。


「だって……本当のお母さんに、見捨てられるなんて。可哀想です」


 はちみつ色の瞳が、ゆらりと揺れた。

 私は立ち上がってそっとその肩を引き寄せると、彼の頭を撫でてやる。


 実の母に捨てられたも同然の彼にとって……この乳児の境遇は、身につまされるものがあるようだ。

 可哀想だと感じる彼の気持ちは否定しないが……だからといって、うちで面倒が見られるわけではない。

 最後まで面倒が見られないのに手を差し伸べるのは、無責任というものだろう。


 クリストファーが乳児に向かって手を伸ばす。

 乳児はクリストファーの指を掴むと、きゃっきゃと楽しげに笑っていた。

 指一本を、手のひら全部を使ってやっとこさ、握っている。クリストファーの瞳がまた一段と潤んだ、気がした。


 生理的微笑がどうとか社会的微笑がどうとか。

 生まれてすぐは親に愛されるために本能で笑顔を形作っているのが、己の意志で笑うようになる、らしい。


 果たして今この乳児が笑っているのが本能なのか意志なのか、はたまたその両方なのか。

 私には知る由もないことである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
仮に本当の母なのだとしたら2日間以外の記憶があるのなら特にその子の事は問題ない筈だし、本当の母である線はないのでは。
[良い点] やったねエリちゃん! 家族が増えるよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ