5.初日から呼び出しを食らってしまった
教師が教室に現れ、最初に行われたのは席替えだった。
教室には横長の机が並んでいて、2人が1つの机に掛けるような形だ。
机も椅子も、前世で一般的に使われていたものよりかなり豪華で、さすが国内随一の名門校と言うだけのことはある。
指定された番号の席に行くと、同じ机の右側の席にはすでにアイザックが着席していた。
「よろしく」
「……」
一応挨拶をしてみるも、嫌そうに眉間に皺を寄せられただけで、返事は返って来ない。
大方、「さっきみたいにうるさくしてみろ。承知しないぞ」とでも思ってるのだろう。
アイザックにお愛想を振りまいてやる義理はないので、それ以上は話しかけることをせず、私もさっさと着席する。
「では、皆さん席に着いたようなので、順番に自己紹介をお願いします。1年間、ともに学ぶ仲間です。お互い、早く顔と名前が一致するようにしましょうね」
担任教師の言葉で、端に座っている生徒から順番に自己紹介をしていくことになった。
3人目くらいまでは頑張って聞いていたが、やはり話を聞くのは苦手なもので、だんだん耳を滑っていく。
見渡す限り、何人か見覚えのある騎士団候補生はいるが、ロベルトはいないようだった。まとわりつかれる可能性が減ったので、一安心だ。
何が悲しくて、学園でまで候補生の面倒を見なくてはならないのだ。
鬼軍曹バレを防ぐためにも、仕事とプライベートはきちんと分けておきたい。……どちらもプライベートではない気がするが。
考えているうちに、私の番が回ってきた。立ち上がると、教室中の視線が集まるのを感じる。
ある者は興味、ある者は妬み、ある者は憧れ。それぞれ違う気持ちがこもった目で、私を見ている。
息を吸って、肺に空気を送る。その勢いで胸を張って、私は出来るだけ明るくはっきりと、自己紹介を開始する。
「バートン公爵家が長女、エリザベス・バートンだ。最近ついたあだ名は『バートン卿』だけれど、バートンでもエリザベスでも、好きに呼んでくれて構わないよ。1年、どうぞよろしく」
最後に、にこりと笑って締めくくる。
教室中がざわざわと、ざわめきに包まれた。
「長女?」
「え? でも、制服は男子の……」
「バートン公爵家って、あの?」
「ていうか、それはあだ名なの……?」
ざわめきの中で、大人しくしていたのは当事者である私と、私の素性をすでに知っているらしい騎士団候補生たち、そして隣の席のアイザックだけだった。
「……バートン?」
アイザックは、私の顔を見上げて、小さく問いかけた。その目は驚愕に見開かれ、まるで宇宙人でも見るような目つきだった。
「エリザベス・バートン? ……お前が?」
「はい、皆さん静かに!」
一向に引かないざわめきに、痺れを切らした教師がパンパンと手を叩く。
彼女は名簿を持っているので、私がエリザベス・バートンであることを知っているはずだ。それでも、声には幾分戸惑いが感じられる。
「気になることがあるのは分かりますが、まずは自己紹介を続けましょう」
同感だ。
見た目と合わせると少々情報量が多い自己紹介だった自覚はあるが、この後私よりヤバい奴が出てこないとも限らない。さっさと次に行くべきだ。
「バートンさんは、後で学園長室に来てください。学園長先生がお呼びですよ」
……初日から呼び出しを食らってしまった。しかも学園で一番偉い人に。まぁ、王太子に呼び出されるよりかはマシだろうか。
私は肩を竦めて、適当に返事をした。





