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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

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8.シンメとか、99ラインとか

 ロベルトと向かい合って、立ち合いを開始する。


 5秒で伸す……つもりだったのだが、いやに粘られた。

 いつも直情的なロベルトに珍しく、私の剣を受け止めるのではなく躱したり、こちらにフェイントをかけてみたり。


 単純な力比べになったところを私が搦め手でいなすというのが最近のパターンだったのだが、今日は違う。そう明確に感じる。

 己の力量を測りたい、競い合いたい。向けられる情熱が幾分少ない代わりに――注がれているのは、「勝ちたい」という感情だ。それがはっきり込められた剣だった。


 彼の瞳はどこまでも真剣に、私に向けられている。

 では対峙する私も――真剣に相手をしてやろう。


 ロベルトが勝ちたがっているらしいのは重々理解した。私はといえば、さして勝ちに執着するような性格はしていない。

 ただ、負けるのは好きではない。それは確かだ。勝った方が、気分が良いからな。


 交えたロベルトの剣を押し返す。

 いつもの力押しで踏み込まれていたらこうは行かなかっただろう。わずかに生まれた隙をついて、彼の懐に潜り込み――そして。

 模造剣の切っ先を、彼の喉元に突きつけた。


「勝負あり、だな」


 にやりと笑ってそう告げると、剣を払って鞘に納める。

 ロベルトは悔しげに唇を噛んで、そして俯いた。


「……また、勝てなかった」


 ロベルトの様子に、はてと首を傾げる。

 私が勝つとたいてい「さすが隊長です!!」といつものキラキラを飛ばしながら駆け寄ってくるのに。

 今日はそれほど、勝ちにこだわっていたのだろうか。


「俺は……まだまだ、貴女には……」

「ええと、そうだな?」


 とりあえず相槌を打ってみると、ロベルトが勢いよく顔を上げた。

 きゅっと唇を引き結んで、何とも表現しがたい顔でこちらを見つめるロベルト。まるで――そう、弟におもちゃを取られて、泣くのを堪えている子どものような。

 そんな、表情だった。


「お、俺、走って、きます!!」


 そう叫ぶように言うと、わっとこちらに背を向けて走り出した。

 見る見るうちにその背中が遠くなっていく。

 何だ、突然。


「おい、ちょっと」

「何だよダーリン」

「アンタほんとふざけんなよ」


 私が混乱していると、やっと立ち上がれるようになったらしいリチャードが寄ってきた。


「何なんだよ、あれロベルト殿下だろ。ここの、第2王子の!」

「ああ、うん。一応」

「うんじゃねぇよ。何でオレ勝負挑まれてんだよ、しかもアンタに敬語だし。何、どういう関係?」

「師弟で、元婚約者」

「…………は?」


 答えると、リチャードが豆鉄砲を食らった鳩のような顔になってしまった。

 ロベルトのことは知っているのに、婚約者だったことは知らなかったのか。

 リチャードがわなわなと手を震わせながら、ロベルトの去って行った方を指さす。


「元、婚約者?」

「うん」

「さ、先に言え!!!!」


 怒鳴られた。

 言っていなかったっけと記憶を遡ってみるが、ロベルトのことをわざわざ元婚約者だと他人に紹介することがそもそもないという事実に思い至った。

 何故なら「元」だからである。


 というか婚約者時代でも基本的にロベルトとの関係性は終始「師弟」以外の何物でもなかったので、それが一番説明として適切だろう。


「いいか、痴話喧嘩にオレを巻き込むな!!」

「痴話喧嘩って」

「アイツどう見てもまだ未練タラタラじゃねぇか!」


 リチャードが血相を変えてロベルトの去った方を指さし続けるが、あのロベルトの様子を見て何故そういう結論になるのか理解できなかった。


 いや、そうか。

 リチャードは私とロベルトの普段の様子を知らないのだ。さらに言えば、婚約していた時の様子だって知りようがない。

 当時のことを知っている人間ならばそんなこと思いもよらないだろうが……それを知らない人間ならば、元婚約者という関係性に何かしら、恋愛にまつわるいざこざを見出そうとしたっておかしくない。


 関係性オタクという言葉もあるくらいだ。キャラクターや推し個人ではなく、他のキャラクターとの関係性にこそ「尊さ」を見出すのだという。

 オタクとまでは行かなくとも、誰それと誰それがどういう関係で、という噂話や推測が好きな人間と言うのは多いものだ。

 シンメとか、99ラインとか、女の子はそういうの、皆好きなのである。


 とはいえ今回は残念ながら本当にそういった類の話は絡んでこないし、リチャードは可愛い女の子ではなくメカクレややイケ男子なので、配慮の必要はないだろう。

 呆れて苦笑しながら手をひらひらと振って否定する。


「ロベルトはこう……初めて見たものを親だと思い込んでいるヒヨコ、というか、犬というか」

「んなわけあるか」


 即答で否定される。


「アンタ馬鹿なの? いくらなんでも鈍すぎない?」


 畳みかけるように言われて、少々気分を害した。

 「アンタ馬鹿ぁ?」が許されるのはツンデレ美少女だけである。

 マリーなら「出ました! 伝家の宝刀!」で許されるかもしれないが、社会人男性が口に上す言葉としては不適切ではないか。コンプライアンスはどうなっている。


 ややむっとしながらも、反論する。


「君は知らないだろうけど、ちゃんと円満に、双方の意思で婚約解消してるから。君の心配しているようなことは何もない。断言する」

「…………アンタって、さぁ」


 しばらくヌタウナギでも見るような目を私に向けていたリチャードが、大きなため息をついた。


「……いや、もういいや。さっさと済まそうぜ」


 何だその言い草は。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど…リチャードがすべてに気付いてしまう修羅場編ですね?! 楽しくなってきたぁー!! [気になる点] リリアにもたまには優しくしてあげてね!
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