エピローグ(リリア視点)
リリア視点です。
エリ様がお兄様を気遣うようにその肩を抱いて歩いています。
近年稀に見るルンルンのエリ様でした。この人ちょっとお兄様のこと好きすぎますよね。
ですが今のお兄様はエリ様とよく似た、ちょっぴりくたびれた感じのあるややイケよりのフツメンです。
こうして見ると本当に兄弟って感じがしますね。
お兄様はエリ様よりやさしげな感じというか、何と言うか……どちらかというと右側な感じがしまして、オブラートに包んで言えばダイアナ様大歓喜の絵面です。
エリ様が明らかに他の人に向けるのとは違う眼差しを向けているのもあって、より一層「ただならぬ関係」感が増していました。
お兄様がいつものふくよかボディのときは微笑ましさ半分呆れ半分で何とも思わなかったのですが……スマートになった途端にこう、一気にお耽美な空気が漂っている気がしてなりません。
エリ様、ちょっと。
ここ乙女ゲームの世界なんですけど。
勝手に違うゲームにするのやめてもらっていいですか?
わたしがジト目で並んでもエリ様はどこ吹く風で、ニコニコしながらお兄様に話しかけます。
「北の国からたくさん褒賞品が送られてくるそうですから、すぐにもとのお兄様に戻りますよ」
「本当? ふふ、楽しみだなぁ」
ふにゃりと微笑むエリ様のお兄様。
ふと不思議に思って、エリ様の横顔を見上げます。
「褒賞って、エリ様向こうで何かしたんですか? あ、怨霊の件ですかね?」
「…………うん、まぁ、そんなところ」
エリ様の答えが何となく歯切れが悪くて一瞬「あれ」と思いましたが、きっと例の姫巫女様? の件でしょう。
何だかずいぶん? 仲良く? やってたみたいですし?
王族だったみたいなので、それでお礼の品をもらったとか。
まったく、エリ様ったら姫巫女様の話をしたらわたしがヤキモチ妬くと思ってわざとぼやかしてるんですね。
大正解です。妬きまくります。
でもエリ様は帰ってきたわけですし! もうその女は関係ないですねもんね!
そう考えてエリ様の隣に並んで、さっと腕を絡めました。
「やっと一件落着ですね! もう、今回こそはちゃんとご褒美、」
「それが……ええと」
エリ様がつぅ、と視線を逸らします。
あれ。
何でしょう、その顔。
ばつが悪そうな顔としか言い表せない顔をしてますけども。
エリ様は頬を掻きながら、気まずそうに呟きます。
「巫女ってさ。私、漢字変換をミスってたみたいで」
「へ?」
「神子、だったんだよね」
「みこ?」
首を捻ります。
みこ、神子。巫女神子ナース?
ええと、どっちも一緒では?
結局神様の使いってことですし、漢字が違ったからといって何が関係があるのでしょうか?
首を捻っているわたしに、エリ様が観念したようにため息をつくと、続きを話し始めます。
「怨霊に取り憑かれてたの、姫巫女様の、双子の弟で」
おと、うと?
弟というと、つまりは、男性?
男性の、巫女って、どういう……あ、だから、神子?
つまり、エリ様が誑かしたのは、双子の姉妹ではなく……双子の姉弟?
「君の『ラスボスは男理論』でいけばまぁ、予想は出来たんだろうけど。聖女も魔女も女だったから、先入観があったというか」
それは、わたしもそうですけど。
って言われたところで、レイちゃんという例外中の例外の存在を思い出しました。
ていうかエリ様、今さらっとレイちゃんのこと女の子扱いしませんでしたか?
エリ様とレイちゃんの性別がややこしいせいで本来起きないはずの問題がいくつも起きている気がしてならないのですけども。
ま、ロイラバ2の勇者、聖女の力を持った男の人なんじゃないかって話もありましたし。
別に男の聖女も魔女もいますよね、うん。そういう世の中ですしね。
何を言ってるか分からないと思いますがわたしもだんだんわからなくなってきました。
「結局王族を2人も助けたことになってしまって。北の国の王様から『ぜひ娘を嫁に』と」
「え」
「私は女だからと断ったら『では息子を婿に』と」
「えええええ!!??」
思わず叫んでしまいました。
エリ様の腕をガッと掴んで詰め寄ります。
「ちょっと!!!! エリ様!!!!! 何予想通りの展開になってるんですか!!!!!」
「いや、うーん」
エリ様が呑気に首を傾げていました。
ちょっと。何へらへらしているんですか。
だから嫌だったんですよ! エリ様のことだから絶対何かしら向こうで女の人といい感じになると思ってたんです!
わたしがひとりで頑張っている間に女の人どころか男の人とまでフラグを立ててくるとか激おこです。
わたしは激おこなのですが、当のエリ様は困ったように眉を下げて、やっぱりヘラヘラしています。
「女の子だったら正直『私は女なので』で断れると思ってたんだけど。ちょっと計画が狂ったというか」
「せっかく帰ってきたのに北の国に行っちゃうつもりですか!? ちゃんと断ってくださいよ!!!!」
「それが……」
エリ様が何やらもにょもにょ言いにくそうに口篭っています。
何ですか? もしかして向こうでラブとか生まれてるんですか??
やっぱりわたしががんばってる間にどこの馬の骨だか分からない女(ないし男)とちちくりあってたんですか!!??
わたしは!!
こんなに!!
身を粉にして!!
がんばったのに!!
「向こうは後継ぎに困ってないから、嫁入りでも婿入りでもいいって」
「は!?」
「しかも神子様、めちゃくちゃイケメンで」
「はぁ!?」
「私より背が高いしやさしいしすごく良い人だし」
「はぁあ!!??」
だから何!!??
めちゃくちゃイケメンだから何ですか!?
エリ様より背が高いから何ですか!?
やさしくて良い人だから何だっていうんですか!!??
「姫巫女様もものすごい美人だし」
「はぁ!!??」
「スタイルいいし気さくだしかわいい人だし」
「はぁああ!!??」
ものすごい美人だから!?
スタイル良くて気さくでかわいいから!?
だから!?
だから何!?
鼻息も荒くエリ様に詰め寄りますが、エリ様は苦笑いするばかりです。
なにわろてんねん。
救いはエリ様がドキドキしたりトキメいている気配がまったくないことくらいです。
ちやほやされた嬉しさはあるのでしょうが、それ以外はただ事実を並べているだけという感じです。
じゃあ逆に何なら靡くんでしょうね、この人。
「何というか……男女対応可、嫁入り婿入り可、それでもってそれぞれ断るのが烏滸がましいレベルの優良物件、っていうのを目の前にして、どう断ったものかと困ってしまって」
エリ様がまた言いにくそうに言葉を切りました。
何でしょう。ここまできてまだ言いにくいことがあるのでしょうか。
もうだいぶ言いにくいことを言い尽くしたような気がするんですけども。
「つい、言っちゃったんだよね」
「な、何を」
「『将来を誓った相手がいる』って出まかせを」
「え」
「そしたら……褒賞持ってくるついでに、見に来ちゃうみたいなんだよね」
「え」
「来週」
エリ様の肩を掴んでいた手から力が抜けます。
え?
は??
この人、今、何て?
エリ様は呆然とするわたしの顔を見て、困ったようにへらりと笑いました。
……が、エリ様検定準一級のわたしは、その口元がわずかに引き攣っているのを見逃しませんでした。
「…………どうしよう」
はあああああ!!!????
「う、浮気者ぉおおおお!!!!!」
わたしの絶叫が、閑静な港にこだましました。
これにて天下一武道会編は完結です!
「天下一武道会編」と聞いて「どんな話やねん」と思った皆様、こんな話でした。
この後はまた少しお休みをいただきつつ、天下一武道会編の閑話をぬるぬる書いていきたいなと思います。
今回の天下一武道会編で第二部は完結となります。
この後のことはまだ考え中なので、とりあえずあとがき的な活動報告を書きますので、ご興味ある方はそちらをご参照ください!
それでは、今日はこのあたりで。





