41.脳内再生余裕(リリア視点)
今回の更新で500部分になりました!!
長いことお付き合いいただいており、まことにありがとうございます。
エリザベスなかなか帰ってこなくてすみません、もうしばらくお待ちください。
文字数ももうすぐ100万字に達しそうな気配がありますが、これからもぼちぼち続けていく所存ですので、引き続きどうぞよろしくお願いします!
王太子殿下が真面目な顔でにこりともせず、ヨウに告げます。
「信書を持たせる。辺境伯領まで飛ばせば半日だ」
「エ?」
「一度は戦った仲でしょう? 必ずロベルトたちに合流させるように」
「エ??」
「早く出ないと間に合わないよ。きみは国境を跨げないんだから」
王太子殿下が紙にさらさらと何かを書いて、差し出しました。
ヨウは差し出された信書らしきものと、王太子殿下の顔を見比べます。
この人、第十三師団のある辺境伯領までダッシュで行って取って返して、西の国行きのロベルト殿下たちが国境を跨ぐ前に合流しろって言ってます?
む、無茶では????
「どうしたの?」
「エート、それだと徹夜で走りっぱなし」
「それが?」
王太子殿下の声が完全に氷点下を超えていて、横で聞いているわたしまで背筋が凍りました。
ヨウは右手と右足を一緒に出してぎくしゃくした動きで王太子殿下に歩み寄り、突き動かされるように信書を受け取ります。
「ギルフォード」
「はい」
「レンブラント卿と見張りをよろしく」
アイザック様と近衛騎士さんが王太子殿下の顔を一斉に見ました。
わたしも二度見しました。
「馬くらい乗れるよね」
「……はい」
頭脳労働専門のアイザック様まで駆り出されるようでした。
この人本当に容赦がありません。
いつでも優美で冷静でスパダリ系で、為政者としても大評判のはずの王太子殿下が、こんなにブラック労働を臣下に強いるとは。
これも、エリ様の影響なのでしょうか。
……悪影響では????
ヨウとアイザック様、近衛騎士さんに続いて、ロベルト殿下とクリスくんが先生に連れられて部屋を出て行きました。
ぽつねんと部屋に残されます。
わたしは、ええと。どっちについて行くのも無理そうなんですけど、待っていたらいいのでしょうか?
何もしないで待つのも何だか落ち着かないのですが……聖女力が回復したら、また片っ端から記憶を戻していくとか?
まずは訓練場の人とかかなぁと考えていると、王太子殿下が椅子から立ち上がります。
そしてわたしの隣まで来ると、こちらを一瞥しました。
やっぱり顔は王太子殿下が一番綺麗ですね。
ま、最後に思い出したような人には負けませんけど。
「きみには一緒に来てもらう」
「え?」
予想していなかった言葉に、目をぱちぱちと瞬きます。
一緒に? ……どこへでしょうか。
西の国でも、辺境伯領でもないのでしょうが……それなら、他のどこへ?
わたしと、この人で?
「ど、どこに」
「バートン公爵家」
わたしの問いかけに、王太子殿下が即答しました。
王太子殿下は何となく、寂しそうな、困ったような……そしてどこか、悔しそうな顔で、言います。
その表情に、気づきました。
この人も、きっと私と同じなのでしょう。
自分が迎えに行けないのがもどかしいくらい、それしか出来ないのが悔しいくらい……エリ様に会いたいと、そう思っているのです。
ゲームのエドワードは、悔しそうな素振りなんて決して見せませんでした。
それはこの人が恋しているのが主人公ではなくて、エリ様だからかもしれませんけど……いつも余裕綽々だったゲームの中の彼とは、やっぱり違っていて。
わたしはその変化にも、エリ様の存在を感じてしまうのです。
王太子殿下は、少し寂しそうな顔のまま、わずかに口の端を上げて、自嘲気味に笑いました。
「彼の記憶が戻っていなかったら、リジーが悲しむでしょう」
なるほど、と思いました。
バートン公爵家に赴く理由に見当がついたからです。
そうですね。
もし片っ端から記憶を戻していくなら……最初に戻すべきは、あの人しかいません。
「リジーのことだから、無茶をして聖剣より先に帰ってくる可能性だってあるし」
「の、脳内再生余裕すぎる……」
「彼だけは先に、戻してやらないと」
王太子殿下の言葉に頷いて、歩き始めた彼の背中を追いかけます。
エリ様、わたしたちの思い通りに動いてくれることなんてほとんどないですもんね。





