39.あるもん!! 魅了あるもん!!(リリア視点)
モブどれ4巻の情報を活動報告に書きました!
表紙とか書き下ろしの情報も載せていますのでご興味のある方はぜひご覧ください。
そんなこんなで、王太子殿下に聖女ビームをかましにきました。
王族と話すには、こちらも王族を出すのが一番手っ取り早いですからね。
学園にいた頃ならいざ知らず、今は王太子殿下との謁見ともなれば、向こうから呼ばれでもしない限り、本来はいろいろと手続きが必要なものです。
ですが……そのあたり、わたしには勝算がありました。
前にエリ様と一緒にいるときに会った、王太子殿下付きの近衛騎士。
あの人には、わたしの魅了が入るのです。
護衛を無力化してしまえば執務室に押し入って、聖女ビームをぶちかますくらいは楽勝でしょう、という作戦でした。
背後にロベルト殿下とアイザック様、クリスくんを引き連れて王城を訪れると、おあつらえ向きにあの護衛騎士が王太子殿下の執務室の扉の前に立っていました。
これ幸いと、その騎士に歩み寄ります。
普段は困らされてばかりのわたしの魅了、初めて役に立つんですね。ふふん。
視線を向けた騎士に向かって、ここぞとばかりに魅了をフルバーストします。
頭の後ろに右手を当てて、左手は腰に添えて。
「う、うっふーん!!」
「?」
「あっはーん!!!!」
「????」
キョトーンとした顔をされました。
しん、とその場が静まり返ります。
近衛騎士さん、ザ・鳩が豆鉄砲を食ったような顔です。全然目がハートになっていません。
あ、あっれれー????
おっかしいぞー????
魅了はいわばパッシブスキルです。
わたしの意思とは関係なく常に発動していて……フルバーストとか言いましたけど、ほとんどわたしの意思ではコントロールできません。
なので、以前この人と会った時と同じくらいの魅了は発動しているはず、なのですが。
何故、効かないのでしょう。
魅了は、心に決めた人さえいなければ誰にでも、効くはずなのに。
……え?
もしかしてこの人、最近恋人とか婚約者が出来たって、コト……?
それはなんともおめでたいことですが、タイミングが悪すぎます。
ほぼ初対面の人の顔も知らない恋人に悪感情を抱くことがあるなんて思いもよりませんでした。
ばっと後ろを振り返って、控えているメンバーに手でバッテンを作って示します。
全員「何やってんだコイツ」の顔をしていました。
いや魅了のことを知らなかったら確かにこの顔になるかもしれませんけど!
今説明したところでこの場にいる誰にも効果がないので信じてくれないかもしれませんけども!
でも!
あるもん!!
魅了あるもん!!
作戦が総崩れになってパニクっているわたしの隣に、ロベルト殿下が歩み出ました。
「レンブラント」
「ロベルト殿下。何かございましたか?」
「兄上にお会いしたい」
兄上。
そう言われて「あっ」と思い出しました。
そうでした。この人、王族なんでした。
あまりに舎弟っぷりが堂に入っているので忘れてましたが、なんとびっくり、この中では1番身分が高いのです。何か全然そんな感じがしないんですけども。
「王太子殿下は、公務が立て込んでおられまして」
「お忙しいなら手伝おう」
近衛騎士さんが、顔に「お前が?」の文字がありありと浮かび上がるような表情をしました。
激しく同意です。
「誰もここを通すなとのご命令です」
「そうか、分かった」
ロベルト殿下が踵を返します。
そして数歩、扉から離れたかと思うと、壁に向き直りました。
その時、わたしは思い出しました。
「ふん!!!!」
どがぁああん。
ロベルト殿下の拳が壁を突き破り、そこに人が通れるほどの大穴が開きます。
そうでしたね。
この人は王族である前に……やっぱり、あの人の弟子なのです。
「リリア嬢、今だ!」
その声に、わたしは残りの聖女パワーをすべて注ぎ込んで、聖女ビームを放ちます。
エリ様には簡単に切り伏せられてしまいましたけど、今この場にエリ様はいません。
穴の向こうで、驚愕の表情でこちらを見る王太子殿下を守る人は……誰も、いないのです。
かくしてわたしの放った聖女ビームは、見事王太子殿下に命中したのでした。





